最新記事

安全保障

アメリカとインドは率先して中国経済に貢献中──米日豪印「クアッド」が骨抜きの理由

THE QUAD AT A CROSSROADS

2022年5月9日(月)10時40分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
クアッド

中国依存のままなら何度開催しても意味がない(2021年のクアッド首脳会談) EVELYN HOCKSTEINーREUTERS

<4か国とも「地政学と経済は別」という口車に乗せられている。安全保障体制を覆そうとする中国を阻止するためのクアッド(日米豪印戦略対話)は本来の目的を見失うな>

クアッド(日米豪印戦略対話)が提唱された当初、インド太平洋地域の主要民主主義国家4カ国によるこの戦略的協力体制の構想は果たして意味を成すのだろうかと、大いに疑問視された。

中国の王毅(ワン・イー)外相は当時、この構想は「話題性ありき」で「インド太平洋の海の泡のごとく」消え去るだろうと皮肉った。

だがとどまることを知らない中国の拡張主義と、それに対抗する広域連携を求める安倍晋三元首相の決意によって、地域安全保障を現実的に補強できる可能性を持った枠組みが次第に強化されていった。問題は、この体制が実際に機能するかどうかだ。

1つ確かなのは、「自由で開かれたインド太平洋」構想のためには、オーストラリア、インド、日本、アメリカというクアッド4カ国の全てが不可欠だということだろう。

クアッドはまだまだ道半ばで、とりわけ4カ国の単独行動がクアッドの原理原則──インド太平洋地域の安全保障体制を覆そうとする中国を阻止する──を骨抜きにしているのは見逃せない。

何よりの問題は、4カ国が漏れなく、地政学と経済は別だとの中国の口車に乗せられていることだ。

昨年、過去最高の6764億ドルに達した中国の貿易黒字は今や、中国経済の主力エンジンだ。貿易黒字なしには中国の成長は失速し、インド太平洋をはじめとした国外地域での攻撃的なまでの軍事・経済投資戦略も思いどおりに進まなくなるだろう。

それなのに、アメリカとインドは先陣を切って中国の貿易黒字に貢献している。突出するのはアメリカだ。アメリカの対中貿易赤字は2021年には前年比25%増の3966億ドルを記録。

一方で、インドの対中貿易赤字は今年3月までの12カ月間で770億ドルに達し、インドの防衛予算を上回る。ヒマラヤ山脈地帯で中国との国境紛争が長期化する状況にもかかわらずだ。

20年から続く中国との国境での衝突でインドのモディ首相は目を覚ますべきだったが、対中で巨額の貿易赤字を膨らませ続けているところを見ると、モディはまだ眠りの中にいるようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

再送韓国、東岸沖に莫大な石油・ガス埋蔵か 尹大統領

ビジネス

トヨタ・ホンダ・マツダなど5社が認証不正、対象車の

ワールド

ウクライナ和平、あらゆる取り組み認めるべき 中国が

ビジネス

英製造業PMI、5月50超え 販売価格1年ぶり大幅
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 6

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 9

    中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえ…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中