最新記事

ウィル・スミス

アカデミー賞「ビンタ」騒動、黒人男性が絡むと些細な暴力事件も炎上するアメリカ社会

Don’t Blow Up This Slap

2022年4月5日(火)18時54分
ジョエル・アンダーソン

騒動から24時間足らずで、メディアには考え得る限りの反応が出そろった。暴力を支持するような行動を公の場で取るべきではないという意見が出た一方で、脱毛症のジェイダを揶揄する悪趣味なジョークを口にしたロックを批判する声もあった。

賞主催の映画芸術科学アカデミーが暴力を非難する公式声明を出したことを、偽善だと批判する見方も一部にあった。アカデミーは長年、ハービー・ワインスティーンら性犯罪を働いていた映画界の大物を甘やかし、称賛さえしてきたではないかというのだ。

この騒動を、人種差別や性差別、障害者差別などと結び付ける見方もあった。他の多くの論点と同じく今回の騒動も、アメリカ社会で光を当てるべき問題は何かという点の受け止め方が人の数だけあることを示していた。

だが大学バスケットの平手打ち事件を思い出して、私はこう考えた──スミスの平手打ち騒動を深刻に捉える必要はない。基本的には単純でありふれた出来事を、複雑な社会の趨勢と結び付けて理解しようとしなくていい。

今回の騒動は、個人的な侮辱(あるいは真偽はどうあれ、当事者がそう受け取った一件)を理由に暴力に走った男性がいたというだけのことだ。

黒人男性が絡むと社会的な問題に発展する

スポーツファンとしてこういう場面をよく目にしてきた私が心配したのは、軽い暴力事件でも黒人男性がそこに絡んだだけで議論を呼ぶ社会的な問題に発展することだった。

アイスホッケーの試合ではよく乱闘が起こるが、ファンの間で人種の要素を加味したような議論にはならない。スミスの一件が問題になったのは、かしこまったアカデミー賞授賞式では前例がないからだろうか? そうかもしれないが、もう少し考えてみたい。

ミシガン大学とウィスコンシン大学の小競り合いは国民的な議論に発展し、ミシガン大学のハワードの自制心の欠如と、彼にはどのような処罰が適切かが話題になった。何らかの処罰が妥当というのが大方の見方だったが、中には過剰反応した人々もいた。

その1人が、スポーツ専門局ESPNで40年にわたって大学バスケット中継の顔を務めてきたディック・ビターリ。彼は「ハワードの許し難い行動には厳しい処罰を与えなければならない」と主張した。だが一方でビターリは、有望な選手の獲得に売春婦を使っていたとして告発されたルイビル大学の白人ヘッドコーチを臆面もなく擁護している。

ハワードは結局、5試合の出場停止処分を受け、公に謝罪し、処罰を経て復帰した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中