最新記事

ウクライナ危機

「ウクライナは国ですらない」「キエフはロシアの都市の母」プーチンは本気で侵攻するか

RUSSIA’S REVENGE

2022年2月21日(月)14時00分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)
ロシアのプーチン大統領

ソ連崩壊は「20世紀最大の地政学的惨事」とプーチンは語る THIBAULT CAMUSーPOOLーREUTERS

<ウクライナを支配下に置き続けるという決意には、歴史的・感情的な要素もある。だが80年代のアフガン侵攻の二の舞になりかねないことはプーチンも分かっている>

帝国が静かに崩壊することは決してなく、敗北した大国は常に失地回復の野心を抱く。第1次大戦後のドイツがそうであり、現在のロシアもまたそうだ。

2005年にロシアのプーチン大統領は、ソビエト連邦の崩壊を「20世紀最大の地政学的惨事」と呼んだ。そして、国境の外にいるロシア系少数民族を保護するという口実で、その惨事を覆そうとしている。

プーチンの究極の狙いは第2次大戦後の秩序を取り戻すこと、ヤルタ協定のようなロシアが旧ソ連の勢力圏を回復すると言明した新しい協定を結ぶことだ。

プーチンに言わせれば、このアプローチが「平和的発展」に不可欠である。

現実として、ロシアはその勢力圏を保持している。主な手段は、ナゴルノカラバフ自治州をめぐるアルメニアとアゼルバイジャンの軍事衝突や、モルドバからの分離独立を宣言したトランスニストリア(沿ドニエストル共和国)をめぐる紛争など、旧ソ連圏の「凍結された紛争」への介入だ。

だがロシアは今、極めて重要なピースを失いかけているかもしれない。

ウクライナをめぐるロシアと欧米の膠着状態は、この国の大きさと戦略的価値を反映している。ただし、ウクライナを支配下に置き続けるというプーチンの決意には、歴史的および感情的な要素もある。

2014年にウクライナ南部のクリミアを併合した後、プーチンは熱狂的な観衆に、クリミアは「人々の心の中では常にロシアの欠くことのできない一部」だと語り掛けた。ウクライナは正統派キリスト教王国としてのロシアの象徴であり、首都キエフは「ロシアの都市の母」とされている。

最近もプーチンは、「ウクライナは国ですらない」「ウクライナの領土の『大部分』は私たちに与えられたものだ」という長年の主張を繰り返している。

ウクライナをNATOに加盟させないために、プーチンがあらゆる手段を講じるつもりなことは明らかだ。

アメリカとしては、ロシアによる大規模な侵攻はもちろん、例えばウクライナ東部を併合して領有権の及ぶ回廊をロシアとクリミアの間につくるための「小規模」な侵攻でも、断固とした対応を取る可能性は十分にある。

もしもアメリカが動かず、ヨーロッパでも有数のウクライナ軍を倒したとしても、ウクライナへの侵攻はロシアにとって、1980年代のソ連によるアフガニスタン侵攻と同じくらい打撃になりかねない。

プーチンもそこは分かっていて、自分がつくり出した危機に対し、メンツを保てるような外交的解決を歓迎するかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

豪賃金、第1四半期は予想下回る+0.8% 22年終

ビジネス

TSMC、欧州初の工場を年内着工 独ドレスデンで

ビジネス

ステランティス、中国新興の低価格EVを欧州9カ国で

ビジネス

午前の日経平均は続伸、米株高で 買い一巡後は小動き
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中