最新記事

生体ロボット

世界初、自己複製する生体ロボット、カエルの幹細胞から開発される

2021年12月1日(水)18時55分
松岡由希子

自己複製する生体ロボット「ゼノボット3」 Douglas Blackiston

<2020年、プログラム制御可能な生体ロボット「ゼノボット」を世界で初めて開発し、大いに注目を集めたが、この研究を進化させて、自己複製する生体ロボットが開発された>

米バーモント大学、タフツ大学らの研究チームは2020年1月、プログラム制御可能な生体ロボット「ゼノボット」を世界で初めて開発し、大いに注目を集めた。ゼノボットは、人工知能(AI)による設計のもと、アフリカツメガエルの胚から採取した多能性幹細胞から培養されたもので、目標に向かって移動したり、物を運搬したり、集団行動できる。また、自己再生でき、切られても自然に修復する。

Meet the Xenobot, the World's First-Ever "Living" Robot


生殖する「ゼノボット3.0」の開発に成功

2021年3月にはこれを進化させた「ゼノボット2.0」を開発。アフリカツメガエルの胚から採取した幹細胞を自己組織化させてスフェロイド(細胞凝集塊)に成長させたところ、数日後に一部の細胞が分化して繊毛を作り出し、より速く移動できるようになった。また、「ゼノボット2.0」では情報を記録する読み書き機能も実装されている。

ゼノボット2.0


研究チームはさらに研究を重ね、生殖する「ゼノボット3.0」の開発に成功した。一連の研究成果は、2021年11月29日、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」で発表されている。

「ゼノボット3.0」の生殖は「自発的な運動学的自己複製」と呼ばれる現象によるものだ。アフリカツメガエルの胚から多能性幹細胞を採取して解離させ、生理食塩水に置くと、自然とくっついて約3000個の細胞にまとまり、5日後には繊毛上皮で覆われたスフェロイド状の表皮となる。

これをペトリ皿で約6万個の幹細胞の中に入れると集団行動によって一部の細胞が積み重なっていき、50個以上の細胞になると、その子となって自ら動きはじめる。さらに解離した幹細胞があれば、同様のプロセスで子から孫ができる。

効率よく自己複製させる形状をAIでつきとめる

研究チームは、人工知能を活用し、効率よく自己複製させるためには、パックマンのようなC型の形状が最適であることも突き止めた。C型となるように切り込みを入れたゼノボットが幹細胞の中を動き回ると、解離した幹細胞がパックマンの口の部分に次々と集まって積み重なり、数日後には、子となって自ら動き出す。

Xenobots: Building the First-Ever Self-Replicating Living Robots


「自発的な運動学的自己複製」は、これまで分子レベルではみられたが、細胞全体や生命体レベルで観察されたことはない。研究論文の責任著者でバーモント大学のジョシュ・ボンガード教授は「生命体の中でいままで知られていなかった領域を発見した。これは広大な領域だ」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展

ワールド

焦点:なぜ欧州は年金制度の「ブラックホール」と向き

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 6
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中