最新記事

中国

習近平、「台湾統一」は2035年まで待つ

2021年12月3日(金)14時20分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

これは何を意味しているかというと、2035年にはおそらく確実に中国のGDPがアメリカを抜いているので、その時なら「統一」を図ってもアメリカは抵抗できまいという、習近平の長期的戦略を示している

経済的にアメリカを凌駕していれば国防費もその分だけ多く注ぐことができ、少なくとも東アジア領域では中国の軍事力もまたアメリカを凌駕していることになると構えているのだ。

習近平はその日まで待つつもりでいることを、この「綱要」は語っている。

台湾企業への締め付け

この「綱要」を完遂するには台湾側の同意が必要だが、そのための準備も着々と進めている。もともと台湾の交易の多くは中国大陸が相手だが、さらに最近では台湾独立を叫ぶ政治家への政治献金などをした企業に関しては罰則を科し、大陸寄りの台湾企業や個人は支援するという戦略で動いている。香港で結局のところ国家安全維持法を通して民主党派を追い出したのと同じように、じわじわと真綿で絞めるようなやり方を実行しているわけだ。

たとえば11月24日、国務院台湾弁公室は記者会見で、中国大陸に複数の拠点を持つ台湾企業「遠東集団」に対し、上海市、江蘇省、江西省、湖北省、四川省などの関係部門が、4.74億元(約85億円)の罰金と追徴金を科したと報じた。遠東集団が台湾の一部の与党議員(たとえば蘇貞昌行政院長=首相)に対して過去に政治献金をしていたことを「独立分子を支援した」とみなしたからだ。

それに対して遠東集団の徐旭東会長は11月29日、台湾メディアの「聯合報」に対し「台湾の独立に反対し、"一つの中国"原則を支持する」との声明を送付している。中国はこのような形で「台湾独立勢力」への制裁を行い、中国寄りの台湾企業を増やそうとしている。

≪2035台湾へ行こう≫という歌が大流行

こういった流れを作るのに、歌を利用するのは中国の常套手段だ。

「綱要」が発布されたのは今年の2月だが、9月18日には≪2035去台湾(2035年には台湾へ行こう)≫という歌が出てきて、いま中国で大流行している(作詞作曲は孟煦東)。歌詞の冒頭は以下のようなものだ(翻訳は筆者)。

  あの高速鉄道に乗って台湾に行こう

  あの2035年の年に

  あのおばあちゃんの澎湖湾を見に行こう

  あの二組半の足跡がきっとあるよ

この歌詞には説明が必要で、二組半の足跡は、「自分とおばあちゃんと、おばあちゃんがついていた杖」の「5つの足跡」のことを指す。

実は1979年に台湾で流行った≪おばあちゃんの澎湖湾≫という歌が大陸でも大流行したことがある。いわゆる1980以降に生まれた「80后(バーリンホウ)」たちが小さい頃に盛んに聞いた曲だ。今は30を過ぎた青年たちが、深い郷愁を以て聞くことができるように、今般の≪2035台湾に行こう≫の歌詞が創られている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スタバ、第2四半期の既存店売上高が予想外に減少 米

ビジネス

イーライリリーが通期売上見通し上方修正、肥満症薬の

ビジネス

バイナンス創業者に禁錮4月の判決、米資金洗浄防止法

ワールド

エストニア、ロシアがGPS妨害と非難 「民間機の運
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 5

    衆院3補選の結果が示す日本のデモクラシーの危機

  • 6

    なぜ女性の「ボディヘア」はいまだタブーなのか?...…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 9

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 10

    「瞬時に痛みが走った...」ヨガ中に猛毒ヘビに襲われ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中