最新記事

米社会

デモ参加者射殺の18歳「無罪評決」でアメリカの分断がさらに広がる

The Implications of Kenosha

2021年11月29日(月)19時25分
アイマン・イスマイル
カイル・リッテンハウス

法廷で事件が起きた状況を説明しながら号泣したカイル・リッテンハウス MARK HERTZBERGーPOOLーREUTERS

<人種差別抗議デモに発砲し、3人を死傷させたカイル・リッテンハウスは評決で「極右の寵児」に。喜ぶ右派と警戒する左派。一方で、警戒感が一層高まった極右も。アメリカのネットで今、何が語られているか>

米ウィスコンシン州ケノーシャで昨年8月、人種差別に抗議するデモ参加者に発砲し、3人を死傷させて殺人罪などに問われていたカイル・リッテンハウス(18)。その裁判で、陪審団は11月19日、無罪評決を下した。

自由の身になったリッテンハウスは22日に早速、FOXニュースの人気司会者タッカー・カールソンの番組に「純朴な坊や」として出演。今後も保守系メディアに引っ張りだこになりそうだ。

インターネット上の極右の掲示板やフォーラムでは、前々から評決予測やその後の成り行きについて盛んにコメントが飛び交っていた。

テロの脅威などを専門とする非営利の研究機関スーファンセンターの上級研究員コリン・クラークによると、右派御用達のメッセージアプリ「テレグラム」では、既に裁判に関連した「何十ものミーム(拡散しやすい画像やフレーズなど)が出回り、中にはリッテンハウスの頭に光輪を描いたものまである」と言う。

「彼はコミュニティーの守り手、誰もが見習うべき手本と見なされている。(極右は無罪評決に)舞い上がっている」

クラークによれば、過激な投稿は勇ましいポーズにすぎず、実行に移されない場合も多い。

だが「正当防衛」の主張が認められ、リッテンハウスが無罪になったことで人種差別への抗議デモに銃を持って乗り込む極右が「増えることは十分予想できる」。

確かに、銃撃事件を起こしたリッテンハウスが一躍有名になり、しかも無罪放免されたのを見て、彼のまねをする者が続々と現れてもおかしくない。

「極右は今、この話で持ち切りで、お祭り騒ぎだ」と、民間の研究機関デジタル科学捜査研究所のジャレッド・ホルトは言う。

ホルトは、評決後に極右が投稿した画像やテキストを見せてくれた。

その中には「(極左集団の)アンティファはリッテンハウスが殺した小児性愛者のためにデモをするだろう」と予想し、「アンティファが罪なき白人を襲撃したら、われらが活動家の出番だ」と気炎を上げる投稿もあれば、白人警官が黒人男性ジョージ・フロイドの首を押さえ付けている画像を加工したミームもあった。白人警官をリッテンハウスに、フロイドをリッテンハウス裁判の主任検事に見立てたものだ。

「黒人の逆襲」を恐れる

極右は評決が発表される前から裁判の結果にどう反応するべきか仲間内で策を練っていた。どうやら彼らは有罪を予想していたようだ。

「有罪であれば、今よりはるかに多く物騒な脅迫メッセージが飛び交っていただろう」と、クラーク。

「その多くはただの怪気炎だが、非常に陰湿なものになっていたはずだ。アンティファや左派をやり玉に挙げる点は同じでも、攻撃の質が違っていただろう」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ沖でタンカー拿捕 一段と緊張高まる公

ビジネス

ブラジル中銀、4会合連続で金利据え置き タカ派姿勢

ビジネス

FRBが3会合連続で0.25%利下げ、反対3票 緩

ワールド

復興計画の原則で合意とウクライナ大統領、クシュナー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中