最新記事

中国

中国のテニス選手だけではない、セクハラ告発に関わって失踪した女性たち

Chinese Activists Who Supported #MeToo, Also Disappeared

2021年11月25日(木)19時00分
ローラ・コーパー

なぜか。伝統的に「男尊女卑」の風潮が根強い中国でも、羅の告発をきっかけに、沈黙を強いられてきた女性たちがSNSを通じて次々に抗議の声を上げるようになった。大学では学生たちが署名運動を進め、性暴力に対処するよう大学当局に圧力をかけた。職場での女性差別、性暴力の被害者に対するいわれなき偏見、家庭内での女性の役割の固定化など、#MeTooの盛り上がりは、中国社会が抱えるジェンダー差別を浮き彫りにし、この問題が広く議論されるきっかけともなった。

中国政府は当初からジェンダーをめぐる議論の高まりを警戒していたが、愛国主義者や政府寄りのインフルエンサーが女性運動の活動家をバッシングし始めたのは今年に入ってからだ。共産党指導部はこの動きを歓迎し、国営メディアで愛国的インフルエンサーの発言を取り上げて賞賛している。

今年の春には何百万人ものフォロワーを誇る愛国的インフルエンサーが数週間にわたって、中国版ツイッターの微博(ウェイボー)でフェミニズム活動家に対する誹謗中傷キャンペーンを展開。根拠もなしに、フェミニズム活動家を「外国勢力の支援を受けた反中国分子」と決めつけた。ちなみにこれは、中国政府が抑え込みに躍起になっている香港の民主派活動家に貼られたのと同じレッテルだ。

4月末までに、SNSで発信を行ってきたフェミニズム活動家とNPOのざっと10数のアカウントが一時的または恒久的な停止処分を受けた。活動家の1人、Liang Xiaowenは微博から「違法で有害な情報」をシェアしたためアカウントを停止すると警告されたことをフォロワーに知らせたが、それ以外のアカウントについては停止の理由すら明らかにされていない。

「お前はトイレットペーパーだ」

国営テレビのインターン時代に、名物司会者の朱軍(チュー・チェン)にセクハラを受けたことを告発し、一時はその勇気を賞賛された周暁璇(Zhou Xiaoxuan)でさえ、今ではバッシングの嵐にさらされ、公開アカウントを通じた発信ができなくなっている。

周のもとには今、脅迫じみたDMが殺到している。「中国から出て行け。おまえみたいな奴がわが国にいるだけでも吐き気がする」「おまえはトイレットペーパーだ。外国人に使われ、捨てられる運命にある」といったものだ。

だが、どんな嫌がらせや脅迫も、声を上げ始めた女性たちを黙らせることはできないと、周は言う。

「フェミニストのブロガーを槍玉に上げ、アカウントを停止すれば済むと思ったら大間違い。女性たちがフェミニズムに目覚めるのは、自分が直面している問題の本質に気づいたとき。そして、いったん目覚めたら、あきらめはしない。多くの女性たちに問題の本質を気づかせたこと。それが#MeTooの大きな功績だ」


20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中