最新記事

追悼

韓国の先進国への道を開いた「盧泰愚」を、国民はどう評価しているか

Unusual Ordinary Man

2021年11月3日(水)14時13分
浅川新介(ジャーナリスト)
盧泰愚元韓国大統領

盧泰愚元大統領の国家葬(10月30日、ソウル) Kim Min-Hee/Pool via REUTERS

<軍人政治を終わらせて民主化を実現しながら、最後は収監された盧泰愚元大統領とその時代をしのぶ>

現代史の軌跡に、韓国人の心が改めてかき乱されている。1988年から93年まで大統領を務め、10月26日に死去した盧泰愚(ノ ・テウ)の死をどう受け止めるべきか。

朴正熙(パク・チョンヒ) 、全斗煥(チョン・ドゥファン)と続いた軍人政治を終わらせ、88年のソウル五輪を平和の祭典として成功させた。「北方外交」と称して、ソ連や東欧など旧共産圏諸国や中国と国交を結び、韓国の国際空間での活躍の場を広げた──。韓国国外ではこういったイメージが強い。

盧は25年に及んだ軍人生活で、一貫して全を支えた。全の信頼は厚く、自ら就いた主要な職責の多くを盧に引き継いだ。盧のナンバー2という立場が一気に変化したのは、大統領の直接選挙制を求める民主化運動が最高潮に達し、やむにやまれず大統領候補の立場で自ら発表した87年6月の民主化宣言だった。

軍人らしいこわもての全とは対照的な、温和な表情の盧が発した民主化公約は国内外に好印象を与えた。87年12月の大統領選でアピールした「普通の人」というイメージは、当選の原動力ともなった。

しかし、盧は79年に全が起こしたクーデターの首謀者の1人であり、80年に多数の死者を出した光州事件の鎮圧にも直接的な責任がある。軍人政権に終止符を打った文民的なイメージと、国民弾圧に加担した軍人としての経歴。指導者としての二面性は韓国の現代史に強く刻まれているところだ。

全斗煥には曖昧な処分しかできず

盧の政治手法はよくいえば臨機応変で柔軟、悪くいえば優柔不断で、硬軟のはざまで揺れ動くのが彼の政治スタイルだった。

全斗煥政権の不正腐敗と民主化運動弾圧を調査する国会聴聞会が開かれると、徹底追及を望む世論と全への義理のはざまで揺れ、揚げ句に全の山寺への追放という曖昧な処分をする。

その判断が、盧の後を継いだ民主化の闘士・金泳三(キム・ヨンサム)元大統領による徹底した「歴史の正しい立て直し」へとつながっていく。結局、自身の光州事件などの責任を問われ、全と共に法廷に立たされることになった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中