最新記事

日中関係

「公明党から国交大臣」に喜ぶ中国──「尖閣問題は安泰」と

2021年10月7日(木)21時43分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

一方、日本では政権交代が起こり、自公連立政権が誕生した。

中国、「親中の公明党が国交大臣になったので、これで安心」

2012年12月24日に安倍晋三氏が内閣総理大臣に選出され、26日に組閣が発表された。その前日の12月24日あるいは25日に、中国は一斉に「安倍は親中の政治家を入閣させるようだ 釣魚島問題(尖閣問題)の情勢を緩和させたいのだろう」という見出しで、公明党の太田昭宏氏が国土交通大臣に指名されるだろうことを「喜び」を以て報じた。

中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」や「人民日報」傘下の「環球時報」の電子版「環球網」をはじめ、中央テレビ局CCTVもニュースの時間に取り上げている。

中国の主張は概ね以下のようなものだ。

──日本のメディアによれば、自民党総裁の安倍晋三は26日に組閣される新内閣で、自民党と連立を組む公明党の前党首太田昭宏を国土交通大臣に指名すると内定したとのこと。太田昭宏は親中の政治家で、しかも国土交通大臣の職位は、海上保安庁を主管するので、これは釣魚島(尖閣諸島)問題で悪化した日中関係を緩和させるための措置と位置付けることができる。これにより安倍政権は中国との(事前の)話し合いを強化していくつもりだろう。

さすがに明確には書いてないが、まるで「これで尖閣問題に関して、中国はもう安心だ」と言わんばかりだ。

公明党が国交大臣になってから「日本は抵抗せず」

中国が喜んだ通り、自公連立政権においては、ひたすら公明党議員が国交大臣になり続けている。

再び図表をご覧いただきたい。

2012年以来、まるで「国交大臣は公明党議員がなるもの」ということが決定事項であるかのように、公明党議員以外が国交大臣になったことがない。

だから、図表の右端2列をご覧いただくとわかるように、どんなに中国公船の月平均の尖閣諸島接続水域内入域隻数や領域侵入隻数が増えようと、日本政府は「遺憾である」という意思表明をする以外に、国家として具体的な阻止行動に出たことがない。

もちろん海保は必死だろうが、そしてもっと果敢に動きたいと思っているだろうが、国交大臣からの指示がなければ海保としても、それ以上のことはできない。

自民党としては、「連立を組んでいる公明党の大臣がそう言うのだから仕方がない」と、中国に遠慮した無為無策の対応への口実を見出すことが出来る。

そのために、わざわざ公明党議員を国交大臣にして自己弁護をするのである。

中国にとっては、こんなに喜ばしい内閣はない。

ウイグル問題に関する制裁を可能にするマグニツキー法も、二階元幹事長以外に、何と言っても公明党の反対に遭い、成立させることが出来なかった。

野党に政権交代されたくはないと中国は思っているだろう。 

しかし「中国に歓迎され、喜ばれる内閣」とは、どういう内閣なのか?

それが日本国民の利益に適うのか?

誰が考えても答えは自明だろう。

尖閣諸島の接続水域や領海内に侵入する中国の不法行為は常態化している。

それでも日本の最大貿易国である中国に実際には何もできないのが日本だ。

対中強硬的な発言だけをして、また対中強硬策を実施するための新しい大臣を任命したりなどしているようだが、国交大臣に公明党を据えている限り、残念ながら岸田内閣の対友好姿勢は変わらないであろうことを憂う。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら

51-Acj5FPaL.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史  習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』(ビジネス社、3月22日出版)、『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』、『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』,『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

20240625issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月25日号(6月18日発売)は「サウジの矜持」特集。脱石油を目指す中東の王国――。米中ロを手玉に取るサウジアラビアが描く「次の世界」とは?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン水兵、南シナ海で重傷 中国海警局が「意図

ワールド

中国首相、西オーストラリアのリチウム工場視察 財界

ビジネス

EU、「バーゼル3」最終規則の中核部分適用を1年延

ビジネス

ファンドマネジャー、6月は株式投資拡大 日本株は縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 7

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 8

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中