最新記事

入管

入管が医療受けさせず女性死亡、遺族「上川法相が責任を取るべき」

2021年8月12日(木)19時30分
志葉玲(フリージャーナリスト)
遺族の会見

ウィシュマさんの遺族らは法務大臣の責任にも言及 (筆者撮影)

<親日家だったスリランカ人女性ウィシュマさんが名古屋入管で死亡した事件の最終報告書は、まだすべてを語っていない>

激しい嘔吐と吐血を繰り返し、体重が20キロも激減するなど、著しく健康状態が悪化したスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)を入院させることなく、今年3月に死なせてしまった名古屋出入国在留管理局(名古屋入管)。8月10日、法務省及び出入国在留管理庁(入管庁)は、ウィシュマさんの事件についての最終報告と、名古屋入管の局長などの処分を発表した。

しかし最終報告も、ウィシュマさんを死なせてしまったことへの追及が甘い上、人が一人死んだ事件にしては処分もあまりに軽く、しかも対象は名古屋入管の局長らだけで入管庁本庁や上川陽子法務大臣自身が具体的に責任を問われるものではなかった。来日中の遺族は「上川法相自身が責任を取るべきではないか」と訴えた。

トカゲのしっぽ切り

ウィシュマさんは昨年8月に名古屋入管に収容された。今年1月半ば頃から吐き気を催し食事を取ることができない等の健康状態の悪化を訴えるようになった。名古屋入管側は、非常勤医師による診察や外部の病院での検査などは行ったものの、ウィシュマさんの健康状態が悪化し続けても、彼女が幾度も求めていた治療のための仮放免(一時的に身柄を解放すること)や入院を許可せず、点滴などの治療も外部病院では行なわせなかった。

これについて、最終報告では名古屋入管内での情報共有や医療体制に不備があったことなどを認めているものの、仮放免を許可しなかったことを「不当とは言えない」と事実上、正当化した。また、最終報告を受けての処分も、名古屋入管の佐野豪俊局長と当時の渡辺伸一次長を訓告、幹部2人を厳重注意とするというもので、7段階ある公務員の処分の中で、それぞれ軽い方から3番目と2番めと、人が一人亡くなった事件に対し、あまりにも軽いものだった。しかも、入管庁の本庁や法務省では誰も処分されていない。

上川法相は責任をとって

処分が名古屋入管に対してのみにとどまったことに、真相究明のため来日しているウィシュマさんの遺族も違和感を感じているようだ。ウィシュマさんの妹であるワヨミさんは「これは名古屋入管だけでなく法務省の問題です」と語り、同じく妹であるポールニマさんも「上川法相が私達と面会した時、法相は『ちゃんと責任を取ります』と言いました。今回の報告書では(今年4月発表の中間報告に)嘘も書いてあったことが判明して、責任を取らないといけないのに、(上川法相は)責任逃れしているようにしか見えません」と語った。「名古屋入管だけではなく、法務省の関係者にどのような処分が行なわれるのか、期待して待っています」(同)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=小幅安、雇用統計は堅調 9月利下げ観

ビジネス

NY外為市場=ドル反発、雇用統計受け利下げ観測後退

ワールド

国連、イスラエルを児童への暴力犯罪者リストに イス

ビジネス

米家計資産、第1四半期は過去最高の160兆ドル 株
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナの日本人
特集:ウクライナの日本人
2024年6月11日号(6/ 4発売)

義勇兵、ボランティア、長期の在住者......。銃弾が飛び交う異国に彼らが滞在し続ける理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らかに ヒト以外で確認されたのは初めて

  • 2

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車が、平原進むロシアの装甲車2台を「爆破」する決定的瞬間

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    【独自】YOSHIKIが語る、世界に挑戦できる人材の本質…

  • 6

    正義感の源は「はらわた」にあり!?... 腸内細菌が…

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 9

    「私、息子を許せません」...16歳の息子が「父親」に…

  • 10

    憎まれ者プーチンは外では「防弾ベストを着せられて…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 3

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が34歳の誕生日を愛娘と祝う...公式写真が話題に

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 5

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 6

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「…

  • 7

    「サルミアッキ」猫の秘密...遺伝子変異が生んだ新た…

  • 8

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 9

    アメリカで話題、意識高い系へのカウンター「贅沢品…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中