最新記事

中国

中国選手を絶賛するバッハ会長と五輪を政治利用する菅政権

2021年8月2日(月)08時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

日本では、バッハはIBC視察に行っただけだと報道されているが、実態は違う。

7月13日のコラム<バッハ会長の頭には「チャイニーズ・ピープル」しかない>に書いたように、バッハの頭にはあくまでも「中国」しかないのである。日本はその通過点に過ぎず、利用しているだけだ。

IOCは北京冬季五輪の有観客開催に期待

東京大会開会式2日前の7月21日、IOCは来年の北京冬季五輪の成功には観客が必要だという見方を示した。発言したのはIOCの北京大会調整委員会のサマランチ(ジュニア)委員長で、「北京大会では大きな成功が必要」で、そのためには「観客が必要だ」と明言した。「中国の人々のもてなしを誰もが楽しむ機会を実現したい」とも語った。

23日から東京大会が無観客で開催されることを決めながら、一方では「五輪の真の成功は観客があってこそだ」と言うことは即ち、「東京は無観客で失敗だ」と言ったに等しく、対照的に「北京ならば(コロナ感染をコントロールしているので)有観客が可能で、成功するだろう」と言ったに等しいのである。

これではまるで、日本は弄ばれているようなものではないか。

そのような中で必死で頑張る日本選手をもバカにしていると言っても過言ではないだろう。

日本国民全体の命に関しては、五輪開催に集中する分だけコロナ感染抑制への努力がそがれて感染は拡大し、医療資源も枯渇して、日本人の命を奪っていく可能性は否定できない。IOCにバカにされながら、日本人は命を犠牲にすることにつながっていく要素を秘めている。

河村議員――五輪開催はコロナ対策に対する国民の不満をそらすため

このような中、自民党の河村建夫議員は7月31日、コロン感染拡大の中での五輪開催に関して、なんと、「五輪がなかったら、国民の皆さんの不満はどんどんわれわれ政権が相手となる。厳しい選挙を戦わないといけなくなる」と語ったという。共同通信が伝えた。
共同通信によれば、それは山口県萩市における会合での発言とのことだが、ここにきて国民から受けていた「国民の命を軽視し、コロナ下でも五輪を強行開催するのは選挙のためだろう」という批判が真実だったことを露呈したことになる。

日本人の命を軽視しているのはIOCだけではなかったのだ。

菅内閣自身が「自公政権与党は選挙しか考えておらず、東京五輪開催によって急拡大していくコロナ感染など眼中になく、日本国民が選手の活躍に目を奪われてくれれば『選挙に有利になる』という思考しかない」ことを証明したようなものだ。

河村議員の「正直さ」にわれわれは深く感謝しなければならないだろう。

私たちが今、いかなる現実に置かれて、いかなる意志によってコントロールされているかを、ここまで「見事に」表現してくれた言葉は滅多にないからだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米テスラ、カリフォルニア州で販売停止命令 執行は9

ワールド

カナダ、北極圏2カ所に領事館開設へ プレゼンス強化

ワールド

香港トップが習主席と会談、民主派メディア創業者の判

ワールド

今年のシンガポール成長予想、4.1%に上方修正=中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中