最新記事

中国

三人っ子政策に中国国民の反応は冷ややか 「二人目さえ欲しくない」理由

China’s Three-Child Policy Won’t Work

2021年6月9日(水)18時57分
ブライアン・ウォン(オックスフォード・ポリティカル・レビュー誌編集長)

戸籍を持たない子供たち

最後の3点目として、政府の方針に逆らって生まれた子供と家族に対する倫理的な課題がある。

一人っ子政策が取られていた頃は、2人目以降の子供については出生届を出さないケースが多かった。そうした子供たちは戸籍を持たない「黒孩子(ヘイハイツ)」(闇っ子)と呼ばれ、教育や医療を受ける権利を与えられていない。政府は黒孩子に権利を認め、不公平な扱いを正すべきだ。

このように政策を修正したからといって、子供を持とうという家庭が増えるとは限らない。しかし、重要なのは数だけではない。生活の質の向上は、これまで社会制度の枠外に置かれてきた人々にとって特に大切だ。

一部の専門家は、新政策の下でも法に反して生まれた子供たちに確実な法的保護を与えるために、出生にまつわる全ての制限をなくすよう政府に要請している。その一方で政府当局者や研究者は、出生に関する制限の全面解除に難色を示している。以前のように、人口が制御できないほどに増加することを恐れているためだ。

だが、そんな懸念は明らかに無用だ。今の中国は、例えば1970年代とはあらゆる面で異なっている。教育水準が高く、専門の技術や資格を持つ中流層が存在する。この層は、2人以上の子供をあまり欲しがらない。

識字率の向上と、農村部における避妊手段の普及で、過剰な人口増加の可能性は大幅に減った。むしろ今の中国は、高齢化や労働人口の減少といった問題に直面している。

三人っ子政策に対する中国国民の見方は複雑だ。この問題についての中国政府の対応は、国民にどこまで寄り添えるかを占う大きな試金石になるかもしれない。

From Foreign Policy Magazine

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏不倫口止め裁判で元腹心証言、弁護団は信頼

ビジネス

インフレなお高水準、まだやることある=カンザスシテ

ビジネス

日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」=

ビジネス

中国BYD、メキシコでハイブリッド・ピックアップを
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中