最新記事

ルポ新宿歌舞伎町「夜の街」のリアル

【コロナルポ】若者が感染を広げているのか? 夜の街叩きに火を着けた専門家の「反省」

ARE THEY TO BLAME?

2021年4月2日(金)16時45分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR210401_kabukicho9.jpg

リスクコミュニケーションという難題にも向き合った西浦 HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

その反省を踏まえてか、西浦が強調したのは高いリスクを背負わされる人々の存在だった。このままでは、感染が広がったロンドンの状況に近くなると険しい表情で言う。その真意はこうだ。

「いま感染が広がっているのはホストといっても駆け出しのホスト、まだ稼げず寮の中で必死に生活しているようなホストたちです。ロンドンでも感染が初期は(高所得の)ハイクラスから広がり、徐々にアンダークラス、貧しい人たちの間で伝播するようになった。東京で起きているのは、その兆候ではないかとも考えられる。決していい兆候ではない」

西浦の元には、彼の「予測どおり」7月上旬に東京で100人以上の感染者が出たという声が届くという。現実と西浦のモデルでは、前提となる条件が異なっており、本人に言わせれば、「予測どおり」ではない。それにもかかわらず、予測が当たったか、外れたかばかりが本人の知らないところで注目される。「データ分析バカ」を自任する西浦が、なぜリスクコミュニケーションまで担わなければいけなくなったかという点については検証が必要だが、現状で最も必要なのは彼のモデルをどう活用するかだ。外野の喧騒よりも、大事なのはやはり現場である。

「誰かが必要としている」

新型コロナ禍に楽観的なシナリオは期待できそうもない。人と人の往来がある以上、完全な封じ込めはもはや期待できず、ワクチン開発も先が見えているとは言い難い。

一方で、2度目の緊急事態宣言はオプションの1つにはなり得ても、社会に与えるダメージが大きい。ただでさえ、たった1度の緊急事態宣言で多くの雇用が失われ、経済的な危機の中で健康リスクにさらされる人々が出た。

「ステイホーム」ができるというのは、やはり恵まれた人々なのだ。家にいられない、家にいるほうがハイリスクであるという人たちも新宿に吸い寄せられるように集まってくる。

新宿2丁目新千鳥街の一角にあるわずか数坪のバー「香まり」──。一ノ瀬文香はタレント業とバーの経営者という2つの顔を持つ。「異セクシュアリティー交流」を掲げる小さな店は、まさに「密」な状況が生まれやすいが、店員のマスク着用、そして換気の徹底などを心掛けながらの再開を決めた。彼女は6月の営業再開を前に従業員にメールを送り、対策の徹底を呼び掛けた。

メールを一部抜粋する。

《【香まり コロナ対策】

・お客さんが来店されたら「アルコールが入っているウエットティッシュで手を拭いてもらう」か、「お手洗いの洗面所に備え付けてあるせっけんで手を洗ってもらう」、どちらかをすることをお願いしてください。

・(通常時と同じですが)換気のために営業中、必ず入り口のドアを開けっ放しにしておいてください。その上で空調はエアコンで調整してください。また、換気扇2カ所は24 時間、稼働させておいてください。》

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ドイツ連立与党、国民の不満が過去最高=世論調査

ビジネス

スリランカ向け支援、IMFが2回目の審査承認 経済

ワールド

米大統領選、トランプ氏がバイデン氏を2ポイントリー

ビジネス

焦点:FRB、政治リスク回避か 利下げ「大統領選後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 2

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 3

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「勝手にやせていく体」をつくる方法

  • 4

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 5

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 8

    謎のステルス増税「森林税」がやっぱり道理に合わな…

  • 9

    バイデン放蕩息子の「ウクライナ」「麻薬」「脱税」…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 10

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中