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医療崩壊を食い止めた人々がいた──現場が教えるコロナ「第4波」の備え方

THE GOOD “MAKESHIFTS”

2021年3月17日(水)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

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HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

看護師長の菅谷志津は約40人のチームを率いている。これまで150人以上のコロナ患者を受け入れるなかで、ただ1人として看護スタッフから「新型コロナ診療」を理由に退職者は出ていない。彼女は「まずは自分を大事にしてほしい、不安は全て言ってほしい」と呼び掛けを続け、アンケートも繰り返し取った。報じられているような地域社会での看護師への差別的な言動もあったが、その都度、病院の中ではみんなで不平不満を言い合い、菅谷ら管理職もそれを聞くことに徹した。不満はやがて、「病気なのに差別するほうがおかしい」という認識に変わった。

アンケートで不安感が「強い」と答えたスタッフは、クラスターを受け入れていた春のピーク時には半数近くいたが、第1波が収束に向かう頃には「普通」と答えるスタッフが最も多くなった。これは慣れではない。現場では「きちんと防護すればコロナ感染は防ぐことができる」と確信を深め、気を付けるべきポイントを共有できたことで、「コロナに感染した普通の患者」を受け入れるという心境に変化したのだ。

事実、ほとんど知見がないなかでクラスターを受け入れるという過酷な看護を経験しながらも、スタッフから1人の感染者も出さずに乗り切っている。スタッフも自宅から通勤し、自宅に帰っている。4月に入職したばかりの新人看護師は「先輩たちのようになりたい」と言い、2020年末の第3波を迎える頃には立派な戦力に成長し、コロナ患者も含めた感染症患者の看護に当たった。

専門医でなくても診られる

中村が第1波収束と前後して始めたのが、地元医師会と協力して地域の病院に対して知見をシェアすることと、病床確保をお願いして回ることだった。クラスターは早期に介入できればできるほど早く収束する。だが、介入できなければ、大病院だけで対応するのは不可能になる。

中村の述懐──「病床確保の必要性は誰もが理解しているが、受け入れには当然不安も付きまとう。だからこそ『医師と患者が双方マスクをして2メートル距離を取れば、感染のリスクは限りなく低い』『院内のゾーニングの仕方』といった事例を具体的に話す。大事なのは、コミットメント。いざとなったらうちの病院で診ます、分からないことはなんでも聞いてくださいと宣言しました」

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HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

彼はビデオ会議システムのZoom(ズーム)でレクチャーするだけでなく、要望に応じて宮本と共に地元の病院を回った。

「レッドゾーンで足カバーは必要ですか?」

「そこまでは必要ないですよ。レッドゾーンは角部屋で、できればトイレがあるところがいいです。患者が不必要に歩き回らないで済みます」

こんなやりとりを繰り返した先に、「では、うちも病床を確保します」という病院が出てくる。中村は「新型コロナウイルスは感染症専門医でなければ診られない病気ではない。通常の肺炎でも基本的な治療のプロセスは同じです。肺炎も放っておけば亡くなる病気ですから」とさらりと言う。軽症ならば風邪と同じような処置、中等症ならば酸素投与と抗炎症薬デキサメタゾンの早期投与、さらに重症化すればICU(集中治療室)に入院する。これが標準的なプロセスだ。

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