最新記事

韓国社会

慰安婦問題で韓国が公的議論を受け入れるとき

Comfort Women Groupthink

2021年2月26日(金)18時00分
ジョセフ・イ(漢陽大学政治学部准教授)、ジョー・フィリップス(延世大学アンダーウッド国際学部准教授)

ソーは同書で、元慰安婦だという李容洙(イ・ヨンス)が92年に記した最初の証言にも触れている。それによると、李は16歳の時に友人と地元の韓国・大邱から家出し、台湾にあった民営の慰安所にたどり着いた。

しかし、補償要求運動の顔になった李は07年には、自宅から強制連行されたと公の場で証言。夜中に押し入ってきた日本軍兵士に力ずくで連れて行かれたと述べた。

より広く知れ渡っていながら、論議があまりに不十分な事実もある。多くの元慰安婦や遺族が補償の受け取りに意欲的だったことだ。

15年の日韓合意に基づき、日本政府が10億円を拠出して設立された財団からは、韓国政府に登録された元慰安婦で合意時点で生存していた47人のうち35人、および遺族58人が補償金の支給を受けた。

94~95年には、政府が認定する存命中の元慰安婦207人のうち61人が、日本のアジア女性基金の償い金支給の対象になった。活動団体が彼女たちをバッシングしなければ、人数はさらに増えたかもしれない。だが韓国政府は、受け取りを拒否するよう経済的圧力をかけた。

04年には元慰安婦33人から成るグループが、補償を受け入れた者を正義連が「おとしめ、辱めた」と批判した。

おそらく最も当惑させられるのは、韓国では日本による植民地支配以前も以降も、国家主導の下で性的労働が行われていた歴史への認識がほぼ不在であることだ。

「謝罪と撤回」を求めずに

高麗王朝時代(918~1392年)と李氏朝鮮・大韓帝国時代(1392~1910年)には、大勢の女性が朝貢品の「貢女」として中国に送られた。太平洋戦争終結以降は政府の了解(70年代には、その奨励と監督)の下で、推計25万~50万人が米軍兵士の「慰安」に当たった。

現代の韓国では、性的労働従事者が世論や政府の同情の対象になることは皆無に近く、移民の場合は多くが強制送還される。韓国の性的労働関連の法律は、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で特に厳罰主義的で、大半の労働者は闇で働くことを強いられる。少数のふしだらな女性だけが、性的労働に自ら従事するという言説が社会を支配しているためだ。

逆説的ではあるが、日本も韓国にとっての手本だ。日本には、自国の欠点を論じる活動家や学者が数多くいる。ラムザイヤーの論文に対して、反射的に謝罪と撤回を要求している人々は自分自身と韓国、そして人権コミュニティーのために、自らの根強い信条を論じ、見直す機会を歓迎したほうがいい。

本稿の目的は、ラムザイヤーの論文を支持することではない。筆者らは学者として、韓国在住者として訴えたい。実証研究・分析によってラムザイヤーの主張を確かめ、正当性に基づいて異議を唱えることが重要なのだ、と。

From thediplomat.com

<本誌2021年3月2日号掲載>

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ベネズエラの変革は武力以外の方法で、ローマ教皇が米

ビジネス

財政の持続可能性に配慮しつつ、戦略的に財政出動を行

ビジネス

中国サービス部門の民間PMI、11月は5カ月ぶり低

ビジネス

米半導体マーベル、同業セレスティアルAIを買収
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中