最新記事

バイデンvs中国

「中国に甘いバイデン」は誤解、対中改善しようにも手は限られている

CAN BIDEN RESET CHINESE RELATIONS?

2021年1月22日(金)17時30分
ミンシン・ペイ(本誌コラムニスト、クレアモント・マッケンナ大学教授)

magSR210121_Biden2.jpg

乱暴だが単純だった前任者トランプ TOM BRENNER-REUTERS

第3は、今の中国が持つグローバルな影響力を考慮して、対決と協力の二正面作戦を採用すること。つまり中国の経済力や技術力、軍事力を弱体化させ、人権侵害を非難する努力を続ける一方で、アメリカの安全と繁栄に不可欠な問題(気候変動への対応や新型コロナウイルス対策、核拡散の防止など)では中国に協力を求めるということだ。

こうした戦略レベルの根本的な変化に加え、バイデン政権の対中政策は(たとえ表面上の目的は同じに見えても)戦術面でトランプ政権のそれとは似て非なるものになる。

トランプは乱暴だったが、バイデンは慎重に、余計な波風を立てずに結果を出そうとするだろう。テキサス州ヒューストンにある中国総領事館の即時閉鎖を命じたり、中国企業が運営する若者に人気のSNSアプリの国内利用を禁止しようとして無用な反発を買ったトランプ政権と違って、バイデン政権は熟慮の上で適切な戦術を選ぶはずだ。

こうした一連の分析を踏まえて予想されるのは、バイデン政権の対中政策がトランプ時代の対決姿勢を踏襲しながらも、主要な分野ではアプローチを変えてくるということだ。しかも、そうした路線修正は政権発足直後から始まりそうだ。

まず期待できるのは、米中間の緊張激化に当座の歯止めがかかることだ。昨年、トランプ政権が中国への制裁措置を乱発したこともあって、これ以上に中国との対立をエスカレートさせる手段は、バイデン政権にはほとんど残されていない。銀行に対する制裁の発動や技術移転規制の強化、さらなる懲罰的関税の導入などの手はあるが、その効果はどれも疑わしく、むしろ世界経済の混乱を招いたり、アメリカ経済に悪影響をもたらす恐れがある。

一方で、バイデンが米中関係の改善に打てる手も限られている。過去1年間にトランプ政権が中国に科した多くの制裁のせいで、バイデンの選択肢がひどく狭められているからだ。追加関税の撤廃や、安全保障上の脅威とされた中国企業への制裁の解除に動けば、共和党からも民主党からも反発を招くだろう。

こんな状況だから、バイデンのアメリカが先に中国側に譲歩するのは難しい。当面は中国政府が先に、関係修復に向けた動きを見せるのを待つしかあるまい。

そうであれば、バイデン政権発足から最初の数カ月間は、トランプ時代ほどに敵意をむき出しにしないけれども米中関係の基調には変化なし、という予測が成り立つ。露骨な懲罰的関税も華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)や半導体大手SMICに対する規制も続くし、香港や新疆ウイグル自治区における人権侵害に対する非難も続くとみていい。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中