最新記事

ワクチン

新型コロナワクチン開発「ビオンテック 」の創業者夫妻はトルコ系移民で注目集まる

2020年11月13日(金)17時00分
モーゲンスタン陽子

ガストアルバイターの息子から医学教授へ

バイオンテックの共同創業者およびCEOのウグル・サヒン教授の父親も、当初ドイツのフォード自動車工場でガストアルバイターとして働いていた。サヒン教授は4歳のとき、母親とともに南トルコからドイツへと移り住んだ。

一方、妻で共同経営者のエズレム・テュレジュ博士はドイツで生まれた。父親はイスタンブール出身の医師で、ドイツの小さな町の自宅で診療所を開いていた。2011年のドイツ誌インタビューでは、幼い頃は人助けのために尼僧になりたかったと語っている。彼女はまた政府主導のプロジェクトBMBF 2020で、「変えられないことは受け入れるが、自分たちの力の及ぶ範囲ならば決意と勇気を持って集中する」と述べている

サヒン教授はもともと癌研究が専門だった。ザーランド大学医療センター勤務中にテュレジュ博士に知り合い、2001年に、免疫療法の抗がん剤を開発するためにGanymed Pharmaceuticalsを立ち上げた(のちに売却)。Ganymedはトルコ語の「苦労して手に入れた」という意味の言葉に似ていると、テュレジュ博士はインタビューで述べている。二人は2002年に結婚。二人とも式当日に研究室に顔を出したと言われている。

9日の発表以降、バイオンテックの株価は急上昇。18%の株式を保有するサヒン教授は現在、ドイツで最も裕福な100人の1人だ。だが、二人ともそんなことには興味がないと、各インタビューで述べている。移民である二人が最高学府で医学を学び、企業を立ち上げるまでの苦労は並大抵のものではなかっただろう。

ドイチェ・ウェレによると、バイオンテックでは現在、60か国から1,300人以上を雇用しており、その半数以上が女性だという

トランプのプロジェクトとは距離

月曜日にバイオンテックと、パートナーの米ファイザー社がワクチン開発成功を発表すると、マイク・ペンス現副大統領が、これは「トランプ氏によって築かれた官民パートナーシップのおかげ」だとツイートした。だがニューヨークタイムズによると、ファイザーはトランプとワープスピード作戦(対新型コロナワクチンの開発・製造を異例の速さで進める政府主導のプロジェクト)から距離を置いている。(ちなみに、バイオンテック社内プロジェクトは「ライトスピード」という名称だ。ドイツにとって新型コロナがまだまだ他人事だった1月にすでに始動していた。)

7月、ファイザーは政府と19億5000万ドルの契約を結んだが、これは事前購入契約であり、ワクチンが納品されるまで支払いはない。ファイザーは、これまでワクチン開発で先端にいたモデルナやアストラゼネカとは異なり、ワクチンの開発や製造を支援するための連邦資金は受け入れていないという。

ファイザーの副社長兼ワクチン研究開発責任者であるカトリン・ジャンセンは8日のインタビューで「私たちは一度もワープスピードのメンバーだったことはない」と言い、「米政府からも誰からも、資金を受け取ったことはない」と述べている。

ただ、ファイザーの広報担当者は9日、同社がワクチンのサプライヤーとしてワープスピードに参加することを明らかにした。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価

ワールド

ウクライナ大統領、外遊取りやめ 東部戦況悪化が影響
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中