最新記事

野生動物

ゾウ大量死の原因は病原体か──可能性は低いがヒトに感染するリスクも

Elephant Mass Death Could Be Caused by New Pathogen That May Pass to Humans

2020年7月15日(水)16時25分
ハナ・オズボーン

無惨な死──ゾウが大量死したボツワナのセロンガ村周辺で(7月9日)Thalefang-REUTERS

<ボツワナで281頭のゾウの死骸が見つかった大量死事件は未だ原因不明だが、その突発性、地域の限定性などから推測されることもある>

ボツワナで数百頭のゾウが大量死した原因は、いまだに謎のままだ。中毒死の可能性もある一方で、これまで知られていなかった病原体が原因との説も浮上している。さらにはこの病原体が人間に伝染する可能性も示唆されている。

ボツワナ政府が7月12日に出した声明によると、同国北西部にあるセロンガ村周辺で、これまでに281頭のゾウの死骸が見つかったと報告している。これら「原因不明の死」については、分析用の試料を諸外国に送り、結果を待っているところだ。ジンバブエの分析結果は既に戻されているが、他国からの結果報告も待って発表を行う予定だ。

地元住民は、ゾウたちが円を描くように歩き回ったのち、顔面から地面に倒れ込んだと証言している。これは神経機能障害の兆候とも考えられ、それが新しい疾患によって引き起こされた可能性もある。

イギリスに本拠を置く自然保護団体ナショナル・パーク・レスキューのニール・マッカーンは本誌の取材に対し、検査の結果が出るまでは、大量死の原因は推測の域を出ないと述べた。現時点では、これが新しい病気だという説を裏付けるエビデンスは存在しない。「すべてが不明だ」と、マッカーンはメールで述べた。「わかっているのは、ゾウたちが運動機能に異常をきたした様子だったということだ。原因が何であれ、それは中枢神経に作用するものらしい」

死骸のサンプルを各国に

「ボツワナ政府は、複数の死骸および周囲の環境からサンプルを採取している。これらのサンプルは、分析のために国内外の複数の研究所に送付された。もし原因が単純なものであれば、既にその正体は突き止められているはずだ。まったく新しいものや複雑なもの、あるいはすぐに分解してしまうものであった場合は、これらのゾウの大量死を引き起こした原因を突き止めるのに数カ月かかる可能性もある」

大量死が新たな病気によるものだった場合、別の個体群にも広まるリスクがある。マッカーンは、ゾウには非常に長い距離を移動する習性があるため、大量死が発生した地域だけに収まらなくなる可能性を頭に置いておくべきだと指摘した。

マッカーンはさらに、ゾウを死に至らしめた原因が何であれ、これが人間に感染するリスクにも言及した。「これが毒素や毒物なら、(付近の)水もしくは土壌が汚染されている恐れが高く、人間に対するリスクは明白だ」とマッカーンは述べた。「もし原因が疾病の場合は、人間にもうつる動物由来感染症の可能性も排除できない」

動物由来感染症の怖さは、新型コロナウイルス感染症で人類は身をもって体験している最中だ。

<参考記事>【写真】ボツワナでゾウが275頭以上が原因不明の大量死 政府が調査
<参考記事>「ゾウの天国」ボツワナがゾウの狩猟を解禁

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とNZ首相、貿易・投資拡大で一致 人権やAUK

ビジネス

ディズニーとフロリダ州知事、対立に終止符 テーマパ

ビジネス

アングル:米株市場、CPI鈍化で出遅れ銘柄に上昇観

ビジネス

ファイアウオール規制、引き続き緩和求める=福留全銀
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 2

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「勝手にやせていく体」をつくる方法

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 5

    謎のステルス増税「森林税」がやっぱり道理に合わな…

  • 6

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 7

    バイデン放蕩息子の「ウクライナ」「麻薬」「脱税」…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 9

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中