最新記事

中国

中国を批判すれば日本人も捕まるのか?──香港国安法38条の判定基準

2020年7月17日(金)17時57分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

国家安全保障法を宣伝する香港政府の広告(6月29日) Tyrone Siu-REUTERS

香港国安法第38条に基づき香港以外で中国批判をした外国人も逮捕されるのではないかという不安と怒りが世界を覆っている。そこで、何をすれば処罰しようと考えているのかを、本法本条項の判定基準を考察したい。

第38条とは

香港国家安全維持法(以下、香港国安法)第38条には、以下のようなことが書いてある。

──香港特別行政区の永住権を有しない者が、香港特別行政区外で、 香港特別行政区に対して、本法が規定した犯罪を実施した場合、本法を適用する。

たったこれだけの条文だが、曖昧模糊とした不確定性が人々に強い警戒感を与えている。そこで一つ一つ噛み砕いて解釈してみよう。

まず「永住権を有しない者」とは、基本的には香港(=中華人民共和国香港特別行政区)から見た「外国人」ということになるので、私たち一般日本人もその範疇に入る。分かりやすいように、日本人を例にとって話をすることにしよう。

私たちが、たとえば日本で「本法が規定した犯罪を実施した場合」には、香港国安法を適用し処罰の対象となると、第38条は言っているのである。

但し、インターポールなどを通して国際指名手配されている場合を除けば、どの国にも外国の捜査権は及ばないから、香港や中国大陸の警察が日本に来て逮捕したりすることはできないのは論を俟(ま)たない。

しかし、中国大陸あるいは香港の「領土領海」内に入った時には香港・中国側が権力を行使するので、日本人など外国人は、香港の空港をトランジットなどで使う時も、「場合によっては」用心した方がいいことになる。ファーウェイの孟晩舟がカナダで拘束されたことを考えると、これは多くの国がやっていることではある。

たとえば日本の刑法第二条には「日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する」として「内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助の罪」とか「外患誘致」あるいは「外患援助」・・・などが列挙してあり、この「すべての者」に香港国安法と類似の処罰対象者が掲げてある。つまり、日本国に何かしら悪いことをしようとした「すべての者」の中には「日本から見たすべての外国人」も入っているのである。

判定基準

ただ中国の場合は、中国大陸(北京政府)の法規の不透明性があるので、世界は激しく反発するわけだ。

その意味で、「本法が規定した犯罪を実施した場合」とはどういう場合なのかを考察するのは非常に重要であろうと考える。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮とロシアは「無敵の戦友」、金総書記がプーチン

ビジネス

世界の企業ブランド価値、アップルが初の1兆ドル越え

ワールド

米、対ロ制裁強化 第三国含む300個人・団体

ワールド

ガザ停戦案、ハマスが「微修正」提案と米高官 ハマス
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:姿なき侵略者 中国
特集:姿なき侵略者 中国
2024年6月18日号(6/11発売)

アメリカの「裏庭」カリブ海のリゾート地やニューヨークで影響力工作を拡大する中国の深謀遠慮

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 2

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「勝手にやせていく体」をつくる方法

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    長距離ドローンがロシア奥深くに「退避」していたSU-…

  • 5

    謎のステルス増税「森林税」がやっぱり道理に合わな…

  • 6

    【衛星画像】北朝鮮が非武装地帯沿いの森林を切り開…

  • 7

    バイデン放蕩息子の「ウクライナ」「麻薬」「脱税」…

  • 8

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 9

    たった1日10分の筋トレが人生を変える...大人になっ…

  • 10

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 1

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 2

    認知症の予防や脳の老化防止に効果的な食材は何か...? 史上最強の抗酸化物質を多く含むあの魚

  • 3

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 4

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 5

    カラスは「数を声に出して数えられる」ことが明らか…

  • 6

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 7

    堅い「甲羅」がご自慢のロシア亀戦車...兵士の「うっ…

  • 8

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が妊娠発表後、初めて公の場…

  • 10

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 10

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中