最新記事

東南アジア

闇に消される東南アジアの民主活動家たち

Southeast Asia’s Desaparecidos

2020年6月18日(木)18時40分
デービッド・ハット

バンコクのカンボジア大使館前では、ワンチャルームの失踪に市民らが抗議(6月8日) JORGE SILVA-REUTERS

<タイで、ラオスで、失踪する反体制派──手を携えて自由を奪う各国政府の弾圧の魔の手からは、亡命しても逃れられない>

突然失踪し、永遠に消息を絶った活動家や反体制派、口にしてはならないことを口にした不運な市民──彼ら「ロス・デサパレシドス」の存在は、中南米の歴史に記された血まみれの汚点の1つだ。時には何年もたってから遺体で発見されることもあるが、その多くはいつまでたっても行方不明のままだ。

愛する者が殺害されたなら、家族は少なくとも嘆くことができる。だが姿を消したままの場合、何も分からないことに家族は最も苦しむ。アルゼンチンでもグアテマラでも、ロス・デサパレシドスの家族の話からは、分からないという痛みが数十年前の失踪時と同じ生々しさで続いていることが感じられた。

ロス・デサパレシドスという呼称は「強制失踪」の被害者、または「失踪者」と訳すことができるが、こうした客観的で法律用語的な表現では、あの恐怖を正確に描写できない。あえて言えば「失踪させられた者」だが、これも多くの場合は単なる婉曲表現だ。

「失踪させられた」という言葉によって言いたい(とはいえ証明できない)こととは、ある人が拉致され、おそらく暗殺されたということ。その犯人は通常、自国政府だ。

中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある。

ラオスの社会活動家、ソムバット・ソムポンが2012年、首都ビエンチャン市内の検問所で停止させられた後に行方が分からなくなった事件は広く知られている。何が起きたのかはいまだに不明だが、ラオス政府との対立が原因だと推測するのが妥当だろう。

今年6月4日には、著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシットが、亡命先のカンボジアで失踪した。両国で抗議活動を巻き起こしているこの事件は、著名ジャーナリストのアンドルー・マクレガー・マーシャルらの主張によれば、タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行されたという。

広がる抑圧の相互依存

ワンチャルームだけではない。2014年の軍事クーデター以来、亡命先で「強制失踪の被害者になっている」タイ人反体制派は少なくとも8人に上ると、国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近の報告書で指摘する。

報道などによれば、ラオスでは2016年以降、タイ人反体制派5人が失踪したとみられる。そのうち2人の遺体は、胃にコンクリートが詰まった状態でメコン川で発見された。

タイ人活動家がラオスで失踪する一方、ラオスの反体制派もタイで姿を消している。昨年8月にバンコクで消息を絶った民主派活動家、オド・サヤボンもその1人だ。

<参考記事>日本がタイ版新幹線から手を引き始めた理由
<参考記事>パクリもここまで来た仰天「ディズニーラオス」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍事演習、開戦ではなく威嚇が目的 台湾当局が分

ワールド

ベトナム輸出、5月は前年比15.8%増 電子機器と

ビジネス

午前の日経平均は小幅続落、国内金利の上昇基調を嫌気

ビジネス

三菱電、25年度のパワー半導体売上高目標を2600
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中