最新記事

ベネズエラ

ロンドンの地下金庫に眠る金塊 ベネズエラ「2人の大統領」の争奪戦は司法の場へ

2020年6月28日(日)13時35分

ベネズエラ大統領はどちらか?

裁判所に提出した書類によれば、ザイワラ氏は4月、英中銀側の弁護士に書簡を送った。英中銀に対し、10億ドル相当の金の売却を手配し、売却代金を国連開発プログラム(UNDP)に送金するよう指示する内容で、UNDPはこれによって、ベネズエラの新型コロナ対策に必要な医薬品・食糧を購入するものとされている。

英中銀はこれを拒否、ザイワラ氏は5月に訴訟を起こした。「国家規模・グローバル規模の緊急事態」において、英中銀がベネズエラ中銀の資産を奪ったという主張である。

オルテガ総裁は5月、ロイターに対し、「私たちには何の歳入もない。キャッシュフローを生み出す手段がない」と語った。

マドゥロ政権によると、ベネズエラの新型コロナ感染者はこれまでに3300人、死者は28人。ここ数週間で感染者数は加速しており、重症患者の急増による医療崩壊の懸念が高まっている。

UNDPはベネズエラ中銀からの接触があったことを認めている。6月3日付けで野党側に送られた書簡をロイターが閲覧したところ、UNDPのラテンアメリカ地域担当者は、何らかの関与を行うとすればベネズエラと英国の中銀の間で「公式合意」した後だと述べている。

英中銀は、マドゥロ氏、グアイド氏のいずれの中央銀行理事会からの指示に従うべきか裁判所に判断を求めている。

ベネズエラ中銀は裁判所に提出した陳述書のなかで、ベネズエラを実行支配しているのはどちらか、英国政府が承認した大使はどちらの側かを判断すべきだと主張している。英外務省の外交官リストにベネズエラ大使として記載されているのは、マドゥロ氏が任命した人物であり、グアイド氏側が指名したバネッサ・ノイマン氏ではない。ノイマン氏はこれについて、グアイド氏が出入国管理局を管理下に置いていないためだと述べている。

一方、グアイド氏陣営は、英政府が誰をベネズエラ暫定大統領として承認しているかに基づき裁判所は判断すべきだと主張している。英外務省は3月、裁判所宛ての書簡で、政府の立場は今も変わっていないことを確認している。

さらにグアイド氏率いる野党側は、マドゥロ政権によって関係者が恫喝されている主張している。ロドリゲス副大統領は5月、グアイド氏とその主任弁護士エルナンデス氏が「金を盗もうとしている」と非難した。

6月1日、エルナンデス氏は首都カラカスの自宅が諜報員によって襲撃されたと訴えた。ただ、同氏は現在米国に住んでいる。同氏はこの襲撃について「ベネズエラの海外資産を守ろうとした」ことに対する報復だと語った。


Angus Berwick Mayela Armas (翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.


20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ朝、通商・安保システム構築へ プーチン氏が訪朝控

ワールド

プーチン氏、遠戚女性ら国防次官に 幹部刷新継続

ビジネス

IBM、楽天に対する特許侵害訴訟で和解成立

ワールド

バイデン大統領次男の弁護団、新たな裁判求める申し立
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆発...死者60人以上の攻撃「映像」ウクライナ公開

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 6

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 7

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 10

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    「クマvsワニ」を川で激撮...衝撃の対決シーンも一瞬…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中