最新記事

日本人が知らない 休み方・休ませ方

日本人は本当の「休み方」を知らない──変われないのはなぜか

HOW WILL THE VIRUS CHANGE WORK?

2020年5月14日(木)10時40分
宇佐美里圭、森田優介(本誌記者)

magSR200513_figure1.jpg

本誌2020年4月21日号20ページより

有休の取得率となると悲惨だ。総合旅行サイトのエクスペディア・ジャパンが毎年19カ国、18歳以上の有職者に行っている最新調査(2018年)によると、日本の有休取得率は50%。3年連続で最下位だ。しかも、取得日数も最短の10日間。昨年、「最低5日の有給休暇取得」が義務付けられる前の数字とはいえ、休んでいる日数は圧倒的に少ない。

同調査によると、日本人が有休を取らない理由の1位は「人手不足」。そして2位が「緊急時のために取っておく」。3位が「仕事する気がないと思われたくない」。この緊急時というのは、自分や家族が病気になったときという意味だ。これは世界の常識ではあり得ないと、早稲田大学商学部で労働問題について研究する小倉一哉教授は話す。

「フランスでは、病気になったら欠勤するのが当たり前。バカンス中に病気になったら、その日から休暇を病気欠勤に切り替え、元気になってからまた休暇に戻る」

一方で、よく指摘されるように日本の労働生産性は長年低迷を続けている。日本労働生産性本部がOECD(経済協力開発機構)のデータを基に計算したところでは、2018年の日本の時間当たり労働生産性(就業1時間当たり付加価値)は46.8ドルで、アメリカ(74.7ドル)の6割強の水準でしかない。OECD加盟36カ国中21位、主要先進7カ国では、1970年以降ずっと最下位だ。

2019年の働き方改革関連法による労働基準法の改正は、約70年ぶりだった。「休み」に関するポイントは、①時間外労働上限の制定(原則月45時間かつ年360時間)と、②年次有給休暇取得義務化(年10日以上の有給休暇が付与される労働者については、年5日は使用者が指定する時季に休暇を取得させることを義務付け)の2点だ。

だが、施行されても改正に実感が湧かない人も多い。昨年9月に日本マーケティングリサーチ機構が行った調査では、約86 %が「働き方改革」という言葉は聞いたことがあるものの、約半数がその内容を理解していなかった。しかも「脱法行為」が横行していると小倉は指摘する。

「日本の法律では、実は休日は週1日だけ。だから週休2日の場合、企業が土曜を就業規則上の休みにしていることが多い」と、小倉は言う。「そこで、今回の改革で最低5日の有給休暇取得が義務化されると、就業規則を変え、年5日の土曜を出勤日に変えた上で会社の指定休にした企業もある」

つまり、従業員は何も知らないまま、いつの間にか5日休んだことになっているというのだ。

休みが切実に必要な日本社会

日本では「休みたくない」労働者が意外と多いのも事実だ。「働きたい人が働いて何が問題なのか」「休んでもやることがない」「お金がないから働いているほうがいい」といった声は根強い。

これに真っ向から異を唱えるのは、中央大学大学院戦略経営研究科の佐藤博樹教授だ。「休んでもやることがない、というのは本当の意味で危機感がない証拠」と、佐藤は言う。「社会も仕事もどんどん変わっていく。変化に対応するには仕事以外の経験を広げ、学び、柔軟な人材にならないといけない。自分を多様化させるために必要なのが休暇だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

コメルツ銀、第1四半期は29%増益 通期の純金利収

ビジネス

ブラックロック、インドに強気 国債ETFのシェア拡

ビジネス

日経平均は小幅続伸、米CPI控え持ち高調整 米株高

ビジネス

午後3時のドルは小幅安156円前半、持ち高調整 米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中