最新記事

感染症

ベルギーの死亡率が世界一高いといわれる理由、ポルトガルが低い理由......

2020年4月28日(火)13時20分
モーゲンスタン陽子

観光客の少なさも幸いした?

さらに、スペインでは公衆衛生に対する長年の緊縮政策の結果、医療リソースが枯渇していたが、ポルトガルでは医療崩壊は起こっていない。都市部の人口密度もそれほど高くなく、医療システムのネットワークは全国に均一に広がっている。これは、パリ一極集中のフランス、南北格差の大きいイタリアなどと比べて、中堅都市が多くシステムが比較的全国均一なドイツが他国より柔軟に対応できているのに通じるところがあるかもしれない。

それにしても、隣り合う2つの国でここまで状況が異なるのはやはり驚きだ。憶測の域を出ないが、スペインやイタリアのようにオーバーツーリズム(過度の観光客来訪)に悩まされていなかったことも幸いしたかもしれない。欧州諸国が出口政策を取り始めるなか、ドイツ外相も観光客の移動の再開には特別の注意を促している。

ところで、右傾化の進む東ヨーロッパと比べ、外国人に対して親切だと、ポルトガルの評判は近年概ね良好だった。さらに、ポルトガルは現在、移民や難民の申請を一時的にすべて受け入れ市民権を与えることで、国内すべての人間が必要な医療措置を受けられるようにしている。

ポルトガルでもドイツやイギリス同様、今週から公共スペースでのマスク着用が義務化。緊急事態は5月2日まで延長されることになった。

ベルギー 数より発生源特定のほうが大切

一方、27日現在、アメリカ、イタリア、スペイン、フランス、イギリスに次いで6番目に多い7000人以上の死者を出している人口1100万人のベルギーは、死亡率がイタリアとスペインを上回り、米国の4倍にもあたると指摘された。

だが同国対新型コロナ政府科学委員会長のシュテファン・ヴァン・グフトは、この数を他国との比較に使用するならそれを「二分する必要がある」とポリティコ誌に語っている。これは、ほとんどの国が病院で確認された死亡のみをカウントするなか、ベルギーでは新型コロナが死亡の原因として確認されていなくても数に含んでいるからだ。

ベルギーで確認された死亡例のうち、44%が病院(検査確認済み)だが、54%が特別養護老人ホームだ。さらに、新型コロナが死因と確認されたケースはこのうち7.8%にすぎない。フランダースの特別養護老人ホーム監督機関の広報担当者ヨリス・ムーネンは「COVID-19で死亡した可能性のあるすべての死者を登録し、ウィルスがどの施設を襲ったかを検出する。これでは数が大幅に増えることはわかっていたが、シグナリングの方が重要だ」と語っている。

たしかに、フランスやイギリスでは、公式の死者数が過小評価されており、老人ホームでの死亡を統計に含めるべきだともいわれている。ベルギーではロックダウンのおかげで新たな感染は減少し、病院でも十分対応できている。死亡率が米国の4倍といわれながらも、すべてが「アンダー・コントロール」だ。

だが、この算出方式には批判もある。「死亡率世界一」という誤った認識が持たれてしまうと、近隣諸国が制裁を緩めるとき、ベルギーに対してふたたび国境を開く可能性が低くなり、経済的な打撃を受けかねないからだ。したがって先週からは、集計方法自体は同じだが、報告の仕方を変えているようだ。政府関係者は同国の集計方法を有効であるとしているが、現在の最優先事項は市民への事実説明であり、国際的イメージは二の次だと語っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン大統領と外相搭乗のヘリが山中で不時着、安否不

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中