最新記事

新型コロナウイルス

引き取り手のない遺体を埋葬しているNY市ハート島とは?

2020年4月15日(水)17時00分
安部かすみ

これまで100万人以上が埋葬されてきたNYハート島 REUTERS/Lucas Jackson

<ニューヨーク州で初の感染者が確認されたのは3月1日。それから43日間で死者数は1万人に達した。犠牲者の中には、身寄りのない遺体も多い......>

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染者数が世界一となっているアメリカ。その中でも特にニューヨーク州は深刻だ。

アメリカの感染者数55万人のうち、約3分の1近く(20万人以上)がニューヨーク州民だ。自宅待機令が出て3週間になり、入院患者数やICU治療数の増加率は減少に転じたが、死者数はなんとか増加の伸びが鈍った、といったところだ。

州で初の感染者が確認されたのは3月1日。それから43日間で死者数は1万人に達した。ここ1週間ほど、毎日約700人ほどが命を落としている。

病院の外には大型の冷蔵トラックが何台も横付けされ、遺体がフォークリフトで運ばれる様子が連日ニュースやSNSに映しだされる。ニューヨークは今、まさに戦場だ。

遺体収容が追いつかない

いくつものクラスターが発生している中で、特別養護老人ホームや介護施設でも多くの犠牲者が出ている。

ニューヨークタイムズによると、ニューヨーク市および近郊での新型コロナ関連の死者のうち約2000人はそれらの施設の入居者という。15人が一気に死亡したブルックリンの介護施設では、施設内の一部を臨時の遺体安置所に変えるなど、対応に追われている。

また別の介護施設にも遺体安置所がないため、遺体はベッドに置かれたままになっているというショッキングなニュースも聞こえてくる。

引き取り手のない遺体は孤島へ

ニューヨーク市主任検診官オフィス(OCME)では新型コロナにより死亡した遺体を安置所に収容する期間について、死亡日から最長15日間にすると発表した。通常のプロセス(30日以上)より短いのは、死者数があまりにも多く、安置所に収容しきれないためだ。

犠牲者の中には、身寄りのない遺体も多い。その遺体を市はハート島(Hart Island)に臨時で埋葬することを決めた。

ハート島とは、マンハッタンから北東部(ブロンクス区)に浮かぶ、131エーカー(0.5平方キロメートル)ほどの小さな無人島だ。すぐ西側に浮かぶシティ島には4000人以上の住民が住んでいるが、ハート島の方はこれまでニューヨーカーでも知らない人がいるほどのマイナーな孤島だ。

ハート島には市が150年以上にわたって運営している墓標のない公営墓地があり、身元不明者を中心にこれまで100万人以上が埋葬されてきた。普段なら、墓参りのために遺族や関係者は矯正局(DOC)に事前手続きをすれば島を訪れることができるが、新型コロナの犠牲者の埋葬作業のため、現在は訪問の受け付けが一時中止となっている。

防護服を着けた作業員しかいない

ニューヨークポストが伝えるところによると、ハート島に埋葬されるのは通常週1日25遺体程度だが、現在は週5日毎日平均24遺体だという。

周りは廃墟と化した建物しかない場所で、とにかく物寂しい雰囲気だ。そんな中、作業員は防護具を着け淡々と埋葬している。埋葬のために掘られた空堀の幅は2列分で、長さは200フィート(約60メートル)。(ドローン撮影された埋葬写真、4月2日の様子)

今月頭まで作業をしていたのは、市内ライカーズ島にある刑務所の囚人だった。彼らは1時間6ドルでこの作業を請け負っていたが、刑務所内での感染拡大も問題となり、現在は一般業者が請け負っている。

遺体の埋葬を請け負っているブルックリンの造園会社「J. Pizzirusso Landscaping」の代表はこのように語っている。「通常この季節は、公園の植樹に忙しい。しかしこの受注を市からの入札で『勝ち取り』、コロナで失業した建設労働者を採用した」。

新型コロナウイルス感染症では、家族がいても死に目にも会えない辛い状況が起きているが、ハート島の埋葬風景を見るとさらに胸が詰まる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トヨタなど5社が認証不正、対象車の出荷停止 国交省

ワールド

メキシコ初の女性大統領、シェインバウム氏勝利 現政

ワールド

エルニーニョ、年内にラニーニャに移行へ 世界気象機

ワールド

ジョージア「スパイ法」成立、議長が署名 NGOが提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 5

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 6

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 7

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 8

    「娘を見て!」「ひどい母親」 ケリー・ピケ、自分の…

  • 9

    中国海外留学生「借金踏み倒し=愛国活動」のありえ…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 4

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像を…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中