最新記事

世界経済

2020年の世界経済が抱える4つの時限爆弾

A Rosy Outlook, But With Big Downside Risks

2020年1月7日(火)18時00分
キース・ジョンソン

世界各国で債務が積み上がる GARY CAMERON-REUTERS

<IMFや世銀の見通しはなぜか明るいが、「サプライズ」回避という前提条件が崩れれば下振れリスクが足を引っ張る>

思えば、2018年の世界経済は山あり谷ありだった。そして2019年はもっとひどかった。製造業は世界中で散々だったし、少なくともアメリカでは中国との貿易戦争で、農業部門が大きな打撃を受けた。それでも今年は意外や意外、大方の予測では世界経済の見通しは明るいという。

もう嵐のピークは過ぎたから、今年は(少なくとも世界全体で見れば)成長軌道に戻れるはずだ。そんな見立てである。だからIMFの予測する成長率は3.4%、世界銀行の予測でも2.7%となっている。その最大の根拠は、各国の中央銀行が今後も金融の量的緩和を続けると予想されること。そうであれば貿易戦争や投資の縮小による痛みの一部が相殺され、今年は緩やかな回復が期待できるというわけだ。

ただし、こうした強気の予想の前提には2つの、かなり恣意的な条件がある。このところ世界経済の足を引っ張っていた新興国、とりわけアルゼンチンやトルコの景気が回復すること、そして貿易戦争や財政破綻といったサプライズが回避されることだ。この2つの前提が崩れたら、2020年の世界経済は縮小に向かうだろう。

IMFも昨年10月の報告で「景気の下振れリスク」が複数あることを認めている。貿易戦争の火種はまだ残っているし、EU離脱後のイギリス経済や、転換期にある中国経済の行方も気掛かりだ。そしてもちろん、いくつかの地政学的リスクもある。

貿易戦争

アメリカと中国は、少なくとも貿易戦争の「停戦」を約束する交渉の「第1段階」に合意した。それでも両国間の貿易戦争は収束には程遠い。合意はあくまで「暫定」であり、これまで何度も同様の合意が発表されたが、結局はまとまらずに来ている。

ドナルド・トランプ大統領と習近平(シー・チンピン)国家主席が最終的に何らかの協定に署名し、両国の貿易関係が部分的に改善したとしても、アメリカによる対中関税(と中国による報復関税)の大部分は残るだろう。

ピーターソン国際経済研究所は「高関税のニューノーマル(新常態)」と称して、米中間では今後も多くの品目について比較的高い関税が維持されると予想している。つまり多くの中国製品(部品や素材など)に依存する米製造業は今後も過大な負担を強いられ、アメリカの企業や消費者の経済的な痛みは今後も続くということだ。

そして貿易摩擦は、米中間の争いだけにとどまらない。北米の新貿易協定がまとまり、中国との停戦をほぼ手中に収めたトランプ政権は、EUとの貿易交渉に再び重点を置きつつある。

アメリカは昨年10月、エアバスに対する補助金をめぐる対立を理由に、新たにEUに対する報復関税を発動した(今後、EU側がさらなる報復関税を発動する可能性もある)。さらにフランスが導入したデジタル税(ほかにも複数の国が導入を検討中)に反発し、フランス製品に追加関税を課すとも警告している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、南東部前線視察 軍は国産ミサイル「

ビジネス

米国株式市場=急落、エヌビディアなど安い 利下げ観

ビジネス

FRBの10月利下げ支持せず、12月の判断は留保=

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米政府再開受け経済指標に注
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 5
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 6
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 7
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中