最新記事

韓国社会

女性アイドルたちの相次ぐ悲劇で韓国は変われるか

Can Three Tragedies Spark Change?

2019年12月19日(木)19時00分
ジェナ・ギブソン

maglifestyle191219_KARA2.jpg

ソウル市内の葬儀所にファンのために設けられたハラの祭壇 CHUNG SUNG-JUN-POOL-REUTERS

スパイカメラを取り締まるために、地方自治体は公共の場所の点検を強化し、盗撮に対する警告を掲示している。国会でも盗撮と画像拡散の厳罰化に向けた法案がいくつか提出されているが、制度を変えるのは簡単ではない。加害者に責任を取らせるために、真剣かつ持続的な取り組みが必要だ。

加害者に責任を取らせることの重要性は、別のK-POPスターの死でも注目されている。今年10月、人気女性アイドルグループf(x)のメンバーだったソルリ(本名チェ・ジンリ)が25歳で亡くなった。やはり自殺とみられている。

自分の恋愛や政治的意見などを率直に語っていたソルリは、ネットでの誹謗中傷の標的になっていた。彼女の死は著名人、特に女性有名人が直面するネットいじめと、社会からの熾烈なプレッシャーに光を当てた。

ネット実名制の議論も

ソルリの死によって、オンラインのヘイト発言に対する規制の必要性も注目されている。国会ではネットいじめを減らすための「ソルリ法」が議論され、オンライン・ハラスメントの厳罰化や、コメントを書き込む際に実名か住民登録番号でのログインを義務付けること、さらにはコメント欄の完全撤廃などが検討されている。

ネット上の書き込みを実名や住民登録番号にひも付ける制度は、ネットの匿名性の欠点を補い、暴力的なコメントを当局が追跡しやすくする。ただしサイバー侮辱罪の導入やネットの実名制に関する法制化をめぐっては、2012年に憲法裁判所が言論の自由を脅かすとして違憲判決を下している。

一方で、韓国第2位のポータルサイトであるダウムは、エンターテインメント関連のニュースのコメント欄を一時的に閉鎖すると発表した。韓国歌手協会は、ポータルサイト最大手のネイバーにも同様の措置を求めている。

3つの悲劇にもう1つ共通する問題は、メンタルヘルスだ。韓国では、心の病で助けを求めると冷ややかな目で見られがちで、精神疾患の医療体制も不十分だ。それでも、メンタルヘルスの問題を告白する著名人は増え続けており、専門的な医療支援の必要性を周知しようという努力も始まっている。

女性アイドルから高校生、プロアスリートまで多くの人の悲劇を通じて、韓国でもここ数年、性暴力的な行為は恥ずべきものであり、他人の権利を侵害する人は適切に処罰されるべきだという認識が広がりつつある。持続的な取り組みの必要性も議論されるようになってきた。

3人の悲劇で高まった関心を、女性を守るために社会と法律を変えるという継続的な圧力につなげるべきだ。

©2019 The Diplomat

<本誌2019年12月24日号掲載>

【参考記事】元「KARA」のク・ハラ死去でリベンジポルノ疑惑の元恋人バッシング
【参考記事】ソルリの死を無駄にはしない 韓国に拡がる悪質コメント禁止の動き

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、不法移民救済 市民権取得に道 米大統領

ビジネス

米5月小売売上高、予想下回る0.1%増 高金利で裁

ワールド

今後1年で金準備増やす中銀増える見通し=WGC調査

ビジネス

FRB「忍耐必要」、インフレなお高水準=ボストン連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 6

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 7

    ルイ王子の「くねくねダンス」にシャーロット王女が…

  • 8

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    中国不動産投資は「さらに落ち込む」...前年比10.1%…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 10

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中