最新記事

香港

中国はやはり香港人を拘束し拷問するのか──英領事館元職員の爆弾証言に怒りが再燃

Is China Detaining Hong Kong Protesters on the Mainland?

2019年11月21日(木)16時05分
ジェームズ・パーマー(フォーリン・ポリシー誌エディター)

今年8月、総領事館前でチェンの似顔絵を掲げ、捜索を訴える女性 Willy Kurniawan-REUTERS

<香港市民のチェンは、中国で拷問され自白を強要された。香港民主派がデモ当初から恐れていた事態だ。秘密警察のやり口や中国共産党のパラノイアも暴露され、香港騒乱には大きな火種が加わった>

香港デモのさなかの8月、15日の間中国当局に拘束された在香港英国総領事館元職員のサイモン・チェンが、11月19日に初めてメディアの取材に応え、拘束中に拷問を受けたと語った。チェンは釈放後も沈黙を守っていたが、取り調べで拷問を受け、身に覚えのない買春行為で自白を強要されたと訴えた。そればかりか、香港のデモは外国が仕掛けたものだという供述も強いられたという。

英政府はチャンの告発は信用に足るものであると確認したと発表している。

チェンは手足を束縛され、目隠しされて、フードを被せられ、「虎の椅子」に座らされたと証言している。これは、中国の秘密警察が取り調べでよく使う、被疑者の動きを封じる金属の椅子だ。警察は釈放前にチェンを脅し、この件については一切口外するなと命じたという。チェンの告発で市民の怒りがさらに高まり、香港の騒乱は激化すると見られる。

チェンは現在、香港以外の安全な場所に身を隠しており、亡命を希望する計画だという。

中国共産党は歴史的に外国の破壊工作に異常に神経を尖らせてきた。こうしたパラノイア(偏執病)が今も根強くあることは、チェンの話から明らかだ。「香港のデモは外国の工作だ」との主張をプロパガンダと片付けるのは簡単だが、共産党の上層部、おそらくは習近平(シー・チンピン)国家主席その人も、本気でそう思い込んでいる可能性がある。そのためチェンのような罪のない市民が標的にされるのだ。チェンはビデオカメラの前で自白を強要された。自白動画の公開は、近年盛んに使われているプロパガンダ手法だ。

英外相は厳重抗議

ほかにも拘束されている香港市民がいるのか。チェンは刑務所で香港のデモ参加者と見られる囚人を複数見掛け、広東語で苦痛を訴える声も聞いたと話している(ただし、中国本土にも広東語を母語とする人は大勢いるので、それだけでは香港市民とは限らない)。今年6月に始まった香港のデモは元々、中国本土への犯罪者の引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正に抗議するものだった。そのため、チェンの告発で香港市民の怒りが燃え上がるのは必至だ。

ドミニク・ラーブ英外相はロンドンで中国大使を呼び出し、この件について厳重に抗議した。中国は公式の謝罪をせず、国営メディアを通じて英政府を激しく批判している。香港の騒乱をめぐり、既に悪化していた英中関係はさらにこじれそうだ。

香港警察は先週末、デモ参加者が立てこもった香港理工大学を包囲し、学生たちと激しい攻防戦を繰り広げた。警察は催涙弾とゴム弾を使用、学生たちは火炎瓶で対抗したが、ほとんどの学生が逃げるか逮捕された。だが今なお構内に100人程度が残っていると見られる。

香港警察が中文大学や理工大学に突入したことや、高校生の服を脱がせて身体検査を行ったことで、市民の警察に対する反感は高まる一方だ。怒りと恐怖が渦巻く現状では、香港企業がいつ平常なビジネスを再開できるか見通しが立たないが、11月24日に予定されている区議会議員選挙で、香港市民が意思表示できる可能性はある。だが中国政府が選挙に介入すれば、いま以上に手の付けられない状態になるだろう。

<参考記事>香港の若者が一歩も退かない本当の理由
<参考記事>香港デモ隊と警察がもう暴力を止められない理由

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国大手銀行、高利回り預金商品を削減 利益率への圧

ワールド

米、非欧州19カ国出身者の全移民申請を一時停止

ワールド

中国の検閲当局、不動産市場の「悲観論」投稿取り締ま

ワールド

豪のSNS年齢制限、ユーチューブも「順守」表明
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 3
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 4
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 5
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中