最新記事

水道

岐路に立つ日本の水道──今、考えたい公共サービスの受益と負担

2019年10月11日(金)15時45分
神戸雄堂(ニッセイ基礎研究所)

料金引き上げがいやなら、水を諦めますか? Bilanol/iStock.

<水道料金の引き上げは待ったなし。これ以上先送りはできない>

1―水道事業の現状と課題

住民にとって最も身近で不可欠な公共サービスとして水道事業がある。日本の水道事業は、現在普及率が100%近く、安価で安全な水が供給されているが、一方で多くの課題を抱えており、将来的に安価で安全な水の供給が危ぶまれている。

水道事業は、原則として市町村が経営するものとされており(水道法第6条第2項)、水道事業を行う公営企業は、独立採算制の原則に基づき、経費を利用者からの水道料金収入等で賄わなければならない。地方公共団体が運営する水道事業者数は2017年度時点で1926団体と、地方公共団体数(1788団体)を上回るほど過多である。その結果、ヒト・モノ・カネなどの経営資源が分散し、規模の経済が働かず、小規模事業者を中心に経営が困難となっている[図表1]。

chart1.jpg

具体的な課題として、(1)老朽化する施設への対応、(2)水道職員の確保、(3)適正な水道料金の引上げ・料金格差拡大の抑制の3点が挙げられる。

(1)については、水道事業に係る施設、特に管路(水道管)の老朽化が進行しており、法定耐用年数(40年)を経過している割合(管路経年化率)は年々上昇している。多くの団体は、更新財源の不足から十分な更新を行えず、老朽化に歯止めを掛けられていない。

(2)については、水道職員数が年々減少し、高齢化も進んでいる。特に施設の補修や更新を担う技術系職員は、後任となる人材育成や技術継承を十分に行えておらず、民間事業者への業務委託の依存度が高まっている。

そして、(3)については人口減少、節水機器の普及等によって有収水量(料金徴収の対象となった水量)が2000年頃をピークに減少している。水道事業は固定費が大部分を占める装置産業であるため、有収水量が減少すると収益を直撃する。有収水量の減少に伴う収益の減少を補うためには水道料金を引上げざるを得ず、実際にこれまでも引上げられてきているが、更新にかかる費用どころか給水にかかる費用さえ、料金収入のみで賄えていない団体(料金回収率が100%未満の団体)が全体の3分の1を上回っている。また、団体間の水道料金格差は最大で約8倍にも達している[図表2]。

chart2.jpg

2―2018年度の水道法改正

これらの現状と課題を踏まえ、政府は水道の基盤強化に向けて2018年度に水道法を改正した。最も注目すべき点は、課題解決のための選択肢の拡大であり、具体的には広域連携及び多様な官民連携の推進がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀が金利据え置き、量的引き締めペース縮小 長期

ワールド

台湾中銀、政策金利据え置き 成長予想引き上げも関税

ワールド

UAE、イスラエルがヨルダン川西岸併合なら外交関係

ワールド

シリア担当の米外交官が突然解任、クルド系武装組織巡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中