岐路に立つ日本の水道──今、考えたい公共サービスの受益と負担
料金引き上げがいやなら、水を諦めますか? Bilanol/iStock.
<水道料金の引き上げは待ったなし。これ以上先送りはできない>
1―水道事業の現状と課題
住民にとって最も身近で不可欠な公共サービスとして水道事業がある。日本の水道事業は、現在普及率が100%近く、安価で安全な水が供給されているが、一方で多くの課題を抱えており、将来的に安価で安全な水の供給が危ぶまれている。
水道事業は、原則として市町村が経営するものとされており(水道法第6条第2項)、水道事業を行う公営企業は、独立採算制の原則に基づき、経費を利用者からの水道料金収入等で賄わなければならない。地方公共団体が運営する水道事業者数は2017年度時点で1926団体と、地方公共団体数(1788団体)を上回るほど過多である。その結果、ヒト・モノ・カネなどの経営資源が分散し、規模の経済が働かず、小規模事業者を中心に経営が困難となっている[図表1]。
具体的な課題として、(1)老朽化する施設への対応、(2)水道職員の確保、(3)適正な水道料金の引上げ・料金格差拡大の抑制の3点が挙げられる。
(1)については、水道事業に係る施設、特に管路(水道管)の老朽化が進行しており、法定耐用年数(40年)を経過している割合(管路経年化率)は年々上昇している。多くの団体は、更新財源の不足から十分な更新を行えず、老朽化に歯止めを掛けられていない。
(2)については、水道職員数が年々減少し、高齢化も進んでいる。特に施設の補修や更新を担う技術系職員は、後任となる人材育成や技術継承を十分に行えておらず、民間事業者への業務委託の依存度が高まっている。
そして、(3)については人口減少、節水機器の普及等によって有収水量(料金徴収の対象となった水量)が2000年頃をピークに減少している。水道事業は固定費が大部分を占める装置産業であるため、有収水量が減少すると収益を直撃する。有収水量の減少に伴う収益の減少を補うためには水道料金を引上げざるを得ず、実際にこれまでも引上げられてきているが、更新にかかる費用どころか給水にかかる費用さえ、料金収入のみで賄えていない団体(料金回収率が100%未満の団体)が全体の3分の1を上回っている。また、団体間の水道料金格差は最大で約8倍にも達している[図表2]。
2―2018年度の水道法改正
これらの現状と課題を踏まえ、政府は水道の基盤強化に向けて2018年度に水道法を改正した。最も注目すべき点は、課題解決のための選択肢の拡大であり、具体的には広域連携及び多様な官民連携の推進がある。