最新記事

韓国

韓国・文在寅政権「GSOMIA破棄」の真意

An Unexpected Decision

2019年9月3日(火)17時00分
北島 純(社会情報大学院大学特任教授)

仮想敵は? 竹島(韓国名・独島)で訓練を行う韓国海軍の特殊部隊(8月25日) SOUTH KOREAN NAVYーYONHAPーREUTERS

<通常では考えられない安全保障上の選択をした文在寅大統領の狙いは南北統一への地ならし?>

韓国と日本の対立がとどまるところを知らずエスカレートしている。

2018年10月の韓国大法院(最高裁)の徴用工判決、12月の韓国海軍による海上自衛隊哨戒機P1に対する火器管制レーダー照射問題に続き、今度は日本が、韓国向けの安全保障貿易管理制度の運用厳格化に踏み切った。フッ化水素等の輸出を包括的に許可してきたのを原則どおりの個別許可に戻すとともに、安全保障貿易管理上の優遇措置を与える「ホワイト国」から韓国を除外する政令改正を8月2日に閣議決定したのだ。

その対抗措置として、韓国は8月22日、国家安全保障会議(NSC)を開催し、日韓の秘密情報保護協定(GSOMIA)を破棄することを決定した。一連の日韓関係の緊張激化の流れの中で、韓国側がここまで踏み込んだ措置を取ることを予想していた人は少ないだろう。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領の行動を、側近のスキャンダルから目をそらすためとか、反日の国内世論をあおるポピュリズムの場当たり的な人気取り政策にすぎないとか分析する向きもある。

また、GSOMIAが破棄されることの意味を、安全保障実務上の「効果」から分析し、北朝鮮のミサイルが飛んできた際に、日本側の正確な情報がなくて困るのは韓国だ、文在寅は下手を打ったという厳しい評価が日本では一般的だ。

確かに北朝鮮によるミサイル発射を正確に把握し分析するには、日本および米国側の衛星情報やレーダー情報(シギント)は欠かせない。

しかし移動式ミサイルの発射の予想は、北朝鮮内部の指揮命令系統の緊張や、燃料補給の手配に関する人的情報(ヒューミント)によるところも多く、それは韓国情報機関が伝統的に強い領域だ。だから情報の共有がなくて困るのはどっちもどっちと言える。

東アジア安全保障の危機

では、文在寅の「真意」はどこにあるのだろうか。

GSOMIAは、秘密軍事情報を2国間で共有する枠組みを規定する協定だが、情報を提供すること自体の義務をお互いに課すのではなく、共有した情報の機密性保護する義務を課すと同時に、相手の事前の承諾なしに第三国へ提供(横流し)したり、目的外で使用したりすることを禁止する義務を課すものだ。今回のポイントは、それが破棄により法的義務ではなくなることにある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ小幅続伸、米利下げ期待で

ビジネス

再送NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中