zzzzz

最新記事

韓国

韓国人はなぜデモがそんなに好きなのか

Why Do South Koreans Protest So Much?

2019年8月19日(月)11時55分
ドラナンダ・ロヒモネ(メルボルン大学学生〔アジア研究・哲学専攻〕)、グラント・ワイエス(政治アナリスト)

脆弱な行政制度に拍車を掛けているのが韓国社会に顕著な地方主義だ。韓国大統領選では、ある地方で圧倒的に支持される候補者が別の地方では限られた支持しか得られないこともある。各政党がイデオロギーではなく、特定の地方との結び付きを強調するためだ。

同郷の候補者を支持する有権者の傾向は、具体的な政策ではなく、地方ごとのアイデンティティーを打ち出す政党の姿勢を後押しする。それがまた、不満を抱く人々のデモを増やす。

mag190819koreaprotests-3.jpg

「光復節」の示威行動 CHUNG SUNG-JUN/GETTY IMAGES

「恨」に突き動かされて

抗議活動という文化には韓国特有の社会心理的要素、すなわち「恨(ハン)」も関わっている。恨とは、不正義や苦しみへの反応として生まれる深い悲しみと怒りの感情と定義できる。これは安心感や力の不在という認識がもたらす無力感の表れだ。

恨を理解するには、歴史的文脈を知ることが役立つ。朝鮮半島は数々の侵略にさらされ、長らく中国の影響下にあった。近年では1910~45年の日本統治、戦後の南北分断が精神に深い傷を与えた出来事として重くのしかかる。その産物が「文化的に特異で、極度に濃縮された激憤」である恨だ。

韓国のデモがこれほど特異である訳を理解するには、恨を考慮に入れることが欠かせない。感情を下位に置くことで理性と感情を切り離そうとする西洋のプラトン的伝統に基づいて韓国の政治と社会を捉えようとするなら、この国の政治の複雑さを完全に把握することはできず、ありのままの韓国社会を尊重することにもならない。

対立解消に際して、核となるのは恨だ。それを認識しなければ、デモが韓国社会に不可欠の要素である理由、そして行政の枠組みが脆弱ではあっても、持続的なデモを政治の機能不全の兆候と捉えるべきではない理由が見えてこない。

既存の政治参加メカニズムの改善や政党の制度強化は、韓国における国家と市民社会の関係向上にとって歓迎すべき事態だろう。だがこうした改善は、あくまでも政治決定に関して民衆により大きな権限を付与することを目的とすべきであり、デモの浸透に歯止めをかけるためであってはならない。

韓国の抗議文化は民衆の政治参加の在り方を映す鏡だ。そして朴の弾劾訴追が示すように、時には重要な結果を生み出すツールになる。

From thediplomat.com

<2019年8月27日号掲載>

20190827issue_cover200.jpg
※8月27日号(8月20日発売)は、「香港の出口」特集。終わりの見えないデモと警察の「暴力」――「中国軍介入」以外の結末はないのか。香港版天安門事件となる可能性から、武力鎮圧となったらその後に起こること、習近平直轄・武装警察部隊の正体まで。また、デモ隊は暴徒なのか英雄なのかを、デモ現場のルポから描きます。


20240604issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年6月4日号(5月28日発売)は「イラン大統領墜落死の衝撃」特集。強硬派ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える グレン・カール(元CIA工作員)

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾との平和的統一の見通し悪化、独立「断固阻止」と

ワールド

北朝鮮、韓国に向け新たに600個のごみ風船=韓国

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中