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日本政治

山本太郎現象とこぼれ落ちた人々

The Taro Yamamoto Phenomenon

2019年7月19日(金)15時10分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

米コロンビア大学の政治学者、マーク・リラがトランプ大統領誕生後に執筆した『リベラル再生宣言』(邦訳・早川書房)の中で、こんなことを書いている。

「リベラルの政治は『私たち』という感覚がなければ成り立たない。私たちは皆、同様に市民であり、お互いに助け合って生きているという感覚だ」

リラは、リンカーン元大統領が喝破した「民衆の感情はすべてである」という政治の鉄則を右派はよく理解しているのに、どうしてリベラルは無頓着なのかと問う。多数派の感情を理解しようとせず、「私たち」という感覚から程遠いリベラル派像は日本でもそう変わらない。枝野的な理念先行の「令和デモクラシー」はその典型である。

立憲側は、社会的に困難を抱えた「当事者」に寄り添っているという認識なのだろうが、彼らの支持者以外からはどう見えるか。リベラルエリートが選んだタレント候補が、「母親」という当事者性をもって、「私たち」の代表然と振る舞う。違和感は拭い切れない。

左派ポピュリズムは、お金を持っている既得権益、エリート層の代弁者になっているリベラル層への不満の表れとして理解するのが適切だろう。山本は「持たざる私たち」「将来に不安を抱えている私たち」という枠組みを新たに政治に持ち込もうとしている。彼らには既成政党が捉え切れていない、どこにも属せない「こぼれ落ちた人」の代表という意味が付与される。

各社の世論調査を総合すると、SNSでの盛り上がりに反して「れいわ」は1議席の確保がやっと視野に入ってきたところだが、その意味合いは決して小さいものではない。

一度火が付いた左派ポピュリズムの動きは当分、消えそうもない。山本は落選しても、次の衆院選への立候補という道が残る。当落のいかんにかかわらず今後も旗印であり、「台風の目」ではあり続けるだろう。

<本誌2019年7月23日号掲載>

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