最新記事

BOOKS

1995年、オウム事件を生んだ平成の「災害史観」とは何か

2019年7月26日(金)18時10分
印南敦史(作家、書評家)

余談だが、個人的にも、かねてからこうした時代のタイムラグは感じていた。例えば(別分野の話ではあるが)、私に「1980年代の本当のスタートラインは1983年あたりだったな」と感じさせたものは音楽だった。

1980年代に入ったところでフロントラインの音楽はさほど変化しなかったが、1983年にデヴィッド・ボウイが『レッツ・ダンス』を出したあたりからポップミュージックの音が硬質になり、そののち激増していったデジタルサウンドが「80年代の音」として認知されるようになったのだ(蛇足ながらマーヴィン・ゲイは、いち早く1982年の時点でデジタル作品を成功させている)。つまりはそんなことを日常的に考えていたので、「1995年からが平成」という感覚も無理なく理解できたのである。

それはともかく、

・阪神・淡路大震災
・地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教・麻原彰晃の逮捕(5月16日)
・自民党、新党さきがけと社会党による連立政権の本格的な動き

この3つこそが昭和の清算で、平成のスタートラインだと著者は主張するのだ。確かにそう考えてみれば、気づけることがある。その後の10年ほどの間には歴史の年譜に刻まれていくような事件、事象がさほど見当たらないということだ。

つまり、そういう意味においても、平成は幕開けから一定の期間を置いて昭和の清算を行ったと考えられるというのである。しかも特徴的なのは、著者がここでオウム事件を「青年の反抗の姿」と紐づけている点だ。


 青年はいつの時代にも既成の秩序に対して反抗すると、昭和の時代には信じられていた。いや反抗するのが当然の姿であり、その反抗が時代が移っていくときの儀式のようなものであった。とくにこれが政治的に特化したのが昭和の特徴であった。加えてその反抗を黙認するのが大人の知恵でもあった。ところがその反抗が暴力と連動し、社会秩序への挑戦に至ると警備当局は徹底して弾圧にかかった。その弾圧があまりに激しかったこともあろう、あるいは政治的に反抗するにしてもその目標をすべて見失ってそれ自体が目的化することにもなった。(101〜102ページより)

新興宗教が若者たちの受け皿になった――だけではない

ときに抑圧的ですらある大人からの締めつけにより、若者たちは少しずつ、政治的に反抗することに価値を見出せなくなっていったということだろう。そして次第に、「正面から反抗してみたところで無駄だ」と感じるようになっていったのだろう。

その結果として新たな反動が生まれ、それはオウム真理教のあらゆる側面に反映されていくことになったということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

NZ補給艦、今月台湾海峡を通過 中国軍が追跡・模擬

ワールド

香港高層住宅群で大規模火災、44人死亡・279人不

ビジネス

注意深く適切に、遅すぎず早すぎずやらなければならな

ビジネス

中国IT大手、AI訓練を国外移転 エヌビディア半導
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 5
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 10
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 6
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 7
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 8
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 9
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中