最新記事

サウジアラビア

正当防衛訴えたインドネシア人女性を処刑 情け容赦ないサウジに反感強まる

2018年10月31日(水)18時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

10月22日インドネシアを訪問したサウジのジュベイル外相(左)に対し、ウィドド大統領(右)は「サウジで働くインドネシア人労働者の保護」を強く訴えていたが── Beawiharta Beawiharta / REUTERS

<反政府ジャーナリスト殺害事件で国際的に批判を浴びているサウジ。今度はインドネシア大統領による「出稼ぎ労働者の保護」要請を無視する暴挙に>

サウジアラビアでメイドとして働き、殺人の罪で死刑判決を受けていたインドネシア人女性が10月29日、サウジ当局によって処刑された。インドネシア政府による度重なる減刑嘆願や支援組織による「裁判やり直し要求」を無視し、女性の家族やインドネシア大使館にも事前通告なしでの突然の執行にインドネシア政府、社会はサウジアラビアへの反感を強める事態となっている。

サウジアラビアはサウジアラビア人フリージャーナリスト、ジャマル・カショギ氏を10月2日にトルコ・イスタンブールのサウジ総領事館で計画的に殺害し、その真相を明らかにしない姿勢に国際社会の批判が高まっている中での出来事だけに、今回の執行はインドネシアの「反サウジ感情」の火に油を注いだ形となっている。

特に10月22日には、カショギ氏殺害の渦中の人物とされているサウジのムハンマド皇太子に近いとされるサウジのジュベイル外相がインドネシアを訪問。ジョコ・ウィドド大統領やレトノ外相はジュベイル外相との会談で「サウジで働くインドネシア人労働者の保護」を強く訴えていた。こうした大統領や外相らの「要請」が無視されたこともインドネシア社会の強い反感の背景にはある。

外務省などによると、サウジ政府がインドネシア人などの死刑執行を事前にインドネシア側に通告する義務はなく、違法ではないとしながらも人道的立場などから覚書で「事前通告」を要請していた。しかし通告は執行後の10月30日で、要請は無視された形となった。

レイプに抵抗した正当防衛と主張

今回処刑されたのはインドネシア・西ジャワ州マジャレンカ出身のトゥティ・トゥルシラワティさん(34)で、出稼ぎ労働者としてサウジアラビア人家庭のメイドとして働いていた。

ところが支援団体などによると、2010年に雇用主の男性から性的暴力(レイプ)を受けそうになり、近くにあった棒で抵抗するうちに男性を殺害してしまった。裁判の過程では「あくまでレイプに対する正当防衛で殺意はなかった」と主張を繰り返した。

さらに殺害後に逃走する過程で「逃走を手助けする」と言って近づいてきた9人のサウジ人男性から繰り返しレイプされた、とトゥティさんは裁判で主張したが、裁判所はトゥティさんの言い分を顧みることなく2011年に情状酌量の余地なしとして「死刑判決」が確定した、という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:欧州移住に関心強める米国人、「トランプ氏

ビジネス

米中、貿易問題巡る初日協議終了 11日に再開

ワールド

インドとパキスタン、即時の完全停戦で合意 米などが

ワールド

ウクライナと欧州、12日から30日の対ロ停戦で合意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノーパンツルックで美脚解放も「普段着」「手抜き」と酷評
  • 3
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦闘機を撃墜する「世界初」の映像をウクライナが公開
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    指に痛みが...皮膚を破って「異物」が出てきた様子を…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 8
    「股間に顔」BLACKPINKリサ、ノーパンツルックで妖艶…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 3
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 4
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 6
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    SNSにはトップレス姿も...ヘイリー・ビーバー、ノー…
  • 9
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 10
    ついに発見! シルクロードを結んだ「天空の都市」..…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 6
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中