最新記事

ミャンマー

ミャンマー軍家系で仏教徒の私が、ロヒンギャのために戦う理由

2018年10月27日(土)13時00分
前川祐補(本誌記者)

――わりと最近の話だ。

そうだ。もちろん、その前から徐々にロヒンギャという言葉を耳にするようにはなっていたが、詳しく知らなかったので彼らが抱えていた問題はまだ私の人生にとってさほど意味のあることではなかった。国際会議でロヒンギャの人に会う機会もあったが、挨拶を交わした程度だった。私の関心がミャンマー全体の民主化に向いていたので、特定の少数民族に対する意識はあまり高くなかったことも影響したと思う。

ロヒンギャ問題の深刻さに気付いたのは08年ごろ。弾圧を受けた少数民族に対するボランティア活動をしていた英国人の妻を通じてのことだった。彼女はロヒンギャを研究していて、彼らとの人脈もあった。

08年か09年ごろ、学者の間でロヒンギャに対する「人道上の罪」が叫ばれたことがあり、私はロヒンギャの人権に関する報告書を手にした。それが、ロヒンギャ弾圧を批判する活動を始めたきっかけだ。

――その時の感情は?

ミャンマー政府に対する怒りと悲しみでいっぱいだった。

――ロヒンギャ弾圧を非難する声は国際社会を含めて多数ある。だがあなたの立場は非常にユニークだ。

確かに。そもそも私はロヒンギャではない、仏教徒のミャンマー人だ。ご存知の通り、多くの仏教徒ミャンマー人は積極的、非積極的にかかわらず政府のロヒンギャ弾圧を支持している。

さらに、私は軍の家系に生まれ育った。軍はロヒンギャ弾圧を主導する中心的存在の1つだ。

――子供時代から軍に対して疑問を持っていた?

そうではない。今でこそ私は軍をファシストと呼んでいるが、幼少期は軍の家系に生まれたことがとても誇らしかった。私の叔父は空軍のエリート戦闘機パイロットで、ネウィン将軍の専属VIPパイロットを務めたこともある。その他、親戚には多くの軍高官がいた。

実際、当時多くのミャンマー人にとって軍人になることは最も栄誉あることだった。ミャンマー人は愛国心が強く、植民地支配に対する反発も強かったので、国家に対する愛情を示す最高の手段は軍に入ることだと思われていた。「ミャンマー的武士道」とでもいうのだろうか。そうした精神が支配的だった。

――自身は入隊を考えなかった?

考えたことはあったが、私は学生の頃から英語に堪能で、その技能が生かせる職に就きたいと思っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中