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ポスト「キッシンジャー秩序」を狙った習近平の対外戦略

2018年10月19日(金)13時30分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

これに関しては今年1月17日のコラム<「チャイナ・イニシアチブ」に巻き込まれている日本>に書いたように、自民党や公明党などの政権与党幹部に焦点を当て、親中に傾くように特定の人物を選んでいる。それは毛沢東がエドガー・スノーやキッシンジャーを「武器」として使ったのと類似の構図だ。親中に誘導していくときのプロセスも実に巧妙である。「必ずその罠にはまるという手段」を、中国共産党は1921年の建党以来、鍛え上げてきた。

今年5月15日に、中央外事工作委員会の第一回会議が開催された。「習近平:党中央の外事工作に対する集中的な統一指導を強化し、中国の特色ある大国外交の新局面を切り開くべく努力せよ」という見出しで中国共産党新聞網(中国共産党新聞の電子版)が伝えた。

会議の内容を見れば、習近平がいかに「一帯一路」にできるだけ多くの国を誘い込むことに力点を置いているかが一目瞭然である。

これら一連の流れの中で、日本に関しては自民党と公明党の幹部そして何よりも経済界を代表する「特定の人物」にターゲットを絞り込み、「"一帯一路"に協力することが、どれだけ日本にとっていいことか」を説得していくのが中共中央の方針であることが見て取れる。事実、事態は、その方向にひたすら動いている。

経済界代表は、そこにビジネスチャンスさえあれば(日本企業の利益を考えて)飛び付く。その心理も中国はしっかり把握している。

また安倍首相が、安倍政権下における日本の経済成長を国内政治の業績として欲しているという心理も中国側は十分に計算した上で誘導戦略を動かしている。

そのためには安倍首相に最も影響力をもたらす首相周辺の人物を、あらゆるルートを通して周到に考察して選定し、そこにターゲットを絞って勧誘していくのである。

こういった周到な考察と特定の人物へのターゲットの絞り込みと誘導を、全世界に対して遂行していけば、キッシンジャーの影響が薄まっていったとしても、その損失は十分に補うことができる。こうしてキッシンジャーに代わる、中国にとって有利な新しい国際秩序を形成していこうというのが習近平政権の狙いだ。

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