最新記事

南シナ海

南シナ海人工島に中国の「街」出現 周辺国の心配よそに軍事拠点化へ

2018年5月30日(水)12時45分

5月24日、南シナ海で領有権争いが白熱しているスプラトリー(中国名・南沙)諸島のスービ(渚碧)礁上では中国の建造ブームが続く。専門家は近い将来、ここが東南アジア海域の中心に駐留する初の中国軍部隊の拠点になる可能性があるという。写真は4月、上空から見たクアテロン礁(華陽礁)。Planet Labs Inc提供の衛星写真(2018年 ロイター)

上空から一見したところ、清潔できちんと計画された小さな街のように見える。スポーツ用グラウンド、整然とした道路、民間の大きなビルもそろっている。

だが、この「街」は、実は領有権争いが白熱しているスプラトリー(中国名・南沙)諸島のスービ(渚碧)礁上にある。この地域の安全保障専門家によれば、近い将来、ここが東南アジア海域の中心に駐留する初の中国軍部隊の拠点になる可能性があるという。

ロイターが閲覧した民間部門によるデータ分析では、中国沿岸から約1200キロ離れたスービ礁には、現在、個々に識別できる建造物が400棟近く存在する。中国の他の島嶼(とうしょ)よりもはるかに多い。

安全保障専門家と外交関係者によれば、スービ礁には将来的に人民解放軍の海軍陸戦隊数百名が常駐する可能性があるだけでなく、中国が文民の存在によって領有権の主張を強化しようとしているため、行政拠点が置かれる可能性もあるという。

画像調査によって独立系メディアを支援する非営利団体アースライズ・メディアのデータは、2014年初頭に中国がスービ礁の浚渫(しゅんせつ)を開始した時期にさかのぼり、「デジタルグローブ」衛星によって撮影された高解像度画像の調査に基づいたものである。

画像には、整然と並んだバスケットボール・コート、練兵場、多種多様な建造物が映っており、建造物の一部の脇にはレーダー装置が見える。

アースライズの創設者ダン・ハマー氏によれば、彼のチームが建造物としてカウントしたのは、自立した、恒久的で識別可能な構造物だけだという。

シンガポールで活動する安全保障専門家のコリン・コー氏は、データと画像を見た後で、「信じがたいことに、バスケットボール・コートのすぐ下に、中国本土で標準的とされる人民解放軍の基地が見える」と語った。

「だが、何らかの部隊を派遣することが大きな一歩になる。その後は、その部隊の安全を守り、維持していく必要がある。つまり、軍事的なプレゼンスは現状に比べて大きくなっていく一方だろう」

西側の上級外交官は、いずれ中国が部隊またはジェット戦闘機を人工島に配備するようなことがあれば、いよいよ重要な通商路である同海域の支配をもくろむ中国の決意をくじくための国際的な取り組みが問われることになる、と語る。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日産、追浜と湘南の2工場閉鎖で調整 海外はメキシコ

ワールド

トランプ減税法案、下院予算委で否決 共和党一部議員

ワールド

米国債、ムーディーズが最上位から格下げ ホワイトハ

ワールド

アングル:トランプ米大統領のAI推進、低所得者層へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」する映像が拡散
  • 4
    大手ブランドが私たちを「プラスチック中毒」にした…
  • 5
    宇宙の「禁断領域」で奇跡的に生き残った「極寒惑星…
  • 6
    ヤクザ専門ライターが50代でピアノを始めた結果...習…
  • 7
    MEGUMIが私財を投じて国際イベントを主催した訳...「…
  • 8
    配達先の玄関で排泄、女ドライバーがクビに...炎上・…
  • 9
    中ロが触手を伸ばす米領アリューシャン列島で「次の…
  • 10
    戦車「爆破」の瞬間も...ロシア軍格納庫を襲うドロー…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映った「殺気」
  • 4
    ワニの囲いに侵入した男性...「猛攻」を受け「絶叫」…
  • 5
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 6
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 7
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 8
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 6
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 8
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中