最新記事

北朝鮮情勢

6カ国協議復帰が前提だった中朝首脳会談──遠のく米朝首脳会談

2018年4月6日(金)12時40分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

まず、中朝首脳会談をやってのけてから米朝首脳会談に臨むという「順番」に関する戦略だが、一見「うまい」ように見えるが、しかし、それによりトランプのプライドを傷つけ、米朝首脳会談の可能性を遠ざけている。このことは4月5日付のコラム「河野発言、中国に思わぬ一撃か?」の最後の部分に書いた通りだ。

当たった「河野発言」

さらに北朝鮮問題分析サイト「38ノース」が河野発言を証拠立てる新たな画像を発表したようだ。「38ノース」は「原子炉の稼働が停止した可能性がある」とする一方で、「川から冷却水を取り込む場所で大規模な掘削作業が行われている」「原子炉の将来の稼働に備え、水の供給を安定させようとしている可能性がある」と分析しているという。ANNニュースが伝えている(英文原文は確認していない。どうにも時間が取れないため、第一次資料に当たっていないことをお許し願いたい)。

となれば、「北朝鮮が核実験のための準備をしている」とする河野発言に反論を唱えた「38ノース」だったが、今度は河野発言をサポートしたことになる。

これが真実だとすれば、金正恩は何とまた愚かなことをしているのだろう。

これでは自分の首を自分で絞めているようなものだ。金正恩外交は、これ以上の発展を見ることはできまい。

日本にチャンスか

連鎖反応的に考えれば、これは安倍政権に有利に働く。日米首脳会談も成功する要素が生まれてきた。

というのは、トランプ大統領は「2国間協議」は好むが、「多国間協議」を非常に忌み嫌っているからだ。したがって中朝首脳会談で主導権を奪われただけでなく、米朝首脳会談が6カ国協議につながる可能性があることが判明すれば、トランプは、おそらく、米朝首脳会談など実行しようとはしない可能性があると判断されるからである。大統領の中間選挙に必ずしも利するとは限らないので、実行する方向に動いたとしてもハードルは高いにちがいない。

安倍首相が影響力をもたらし得る空間が、少し開けてきたのではないだろうか。

endo-progile.jpg[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、ロシア凍結資産活用の前倒し提起へ 来週

ビジネス

マスク氏報酬と登記移転巡る株主投票、容易でない─テ

ビジネス

ブラックロック、AI投資で各国と協議 民間誘致も=

ビジネス

独VW、仏ルノーとの廉価版EV共同開発協議から撤退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 2

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 3

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 4

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    「香りを嗅ぐだけで血管が若返る」毎朝のコーヒーに…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中