最新記事

フィリピン

「コンドームは気持ちよくないから使わない」?──比ドゥテルテ大統領

2018年2月26日(月)14時00分
大塚智彦(PanAsiaNews)

普通の指導者ならクビが飛びそうだがドゥテルテの暴言には国民も慣れっこ Dondi Tawatao-REUTERS

<ドゥテルテ、また暴言。貧困対策の人口抑制やHIV対策はどうなるの?>

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が、人口抑制のためには避妊が重要としたうえで、「男性は気持ちよくないコンドーム」ではなく「女性用の避妊薬(ピル)」をもっと使用するよう国民に求め、反発を受けている。

これは2月15日にニノイ・アキノ国際空港で海外出稼ぎフィリピン人を前に行った演説の中で明らかにしたもの。この日はクウェートに出稼ぎにいっていて殺害され、冷凍庫で発見されたフィリピン人の遺体を出迎えるため空港での儀式に参列していた。

空港で出迎えの遺族や出稼ぎフィリピン人の知人、関連団体などを前にドゥテルテ大統領は現在フィリピンが抱える深刻な問題として失業や飢餓をあげ、その一因が人口増加にあると指摘した。

その上で避妊によって人口を抑制する「産児制限」の重要性を訴えた。

そして演説は突然横道に逸れはじめ、いつものドゥテルテ節が始まった。コンドームは「気持ちがよくない」として「もっと積極的に避妊薬を使うべきだ」「政府の人口抑制策で、避妊薬は無料で配布されている」などと述べた。

だがこれでは一方的に女性に人口抑制の負担が押し付けられることになると反発を招いた。地元記者の一部からは「不用意な発言である」として反発する声も起こっている。

HIV感染者も多いのに

もう一つ大きな問題は、フィリピンはアジア太平洋地域で最もHIV感染者が多い国の一つだということ。2010年には4,300人だった感染者が2016年には10,500人と増加している。

支援団体などは「避妊薬ではHIV感染を防止することはできない」と指摘。「それを気持ちよくないから使うなというのは男性側の勝手な思い」と、ドゥテルテ発言に反発する。

人口増加はフィリピンの貧困問題の一因でもあるとの認識から、ドゥテルテは避妊対策を重視。2017年1月9日には、600万人の女性が地方自治体から無料でコンドームの配布を受けられる大統領令に署名した。

2015年に21.6%あった貧困率を2022年までに13~14%に削減するという目標を掲げ、貧困対策に全力で取り組んできた。ところがこの無料配布政策も一向に効果が上がらないので、「女性が避妊薬を服用すべきだ」と方向転換したものとみられている。

最近はなりを潜めていた大統領お得意の「ドゥテルテ節」として大半の国民はとらえており、大きな世論の反発を招くまでに至っていないのはさすが暴言の常習犯というべきか。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ICC、ネタニヤフ氏とハマス幹部の逮捕状請求 米な

ビジネス

FRB副議長、インフレ低下持続か「判断は尚早」 慎

ワールド

英裁判所、アサンジ被告の不服申し立て認める 米への

ワールド

ウクライナ、北東部国境の町の6割を死守 激しい市街
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中