最新記事

北朝鮮制裁

北朝鮮との裏取引を許さないアメリカの(意外な)制裁力

2017年10月14日(土)14時00分
メガン・ライス(Rストリート研究所安全保障担当シニアフェロー)

取引額が年間1億ドルに迫るという北朝鮮の武器不正輸出に歯止めをかけられるのか KCNA-REUTERS

<同盟国エジプトが武器輸入を図った昨年の事件で、米政府の対応は制裁の本気度を示した>

10月1日、北朝鮮製武器の不正取引事件の奇妙な顚末が、米紙ワシントン・ポスト電子版の報道で明らかになった。

事件が起きたのは昨年8月だ。米当局からの情報に基づいて、エジプトの税関当局が同国沖でカンボジア船籍の貨物船を拿捕。北朝鮮を出発地とするこの船からは、携行式ロケット弾約3万発(推定価格2300万ドル相当)が見つかった。

その買い手は、実はエジプト軍の代理人であるエジプト企業だった。同国がアメリカから巨額の支援を受けていることを考えると、驚きの事実だ。

トランプ米政権は今年8月、エジプトへの経済・軍事支援を3億ドル削減・留保すると決めた。エジプト国内での人権侵害を懸念してのことだとされたが、複数の米当局者によれば、決断の契機はこの武器輸入事件だ。

支援削減は、アメリカが北朝鮮問題を最重要視する現状を浮き彫りにする。トランプ政権の目的はエジプトを罰すると同時に、同盟国であっても北朝鮮と武器取引をすればどうなるか、見せしめにすることだった。

この出来事からは対北朝鮮制裁の実態も浮かび上がる。すなわち、国連による制裁とアメリカによる制裁の在り方だ。

北朝鮮が初めて核実験を行った06年、国連安保理は最初の制裁決議を採択。北朝鮮からミサイルや関連物資を調達することが禁じられた。北朝鮮が2回目の核実験を実施した09年には、北朝鮮による武器の輸出入が全面的に禁止された。

法施行の徹底をアピール

国連加盟国は対北朝鮮武器禁輸措置を遵守すべきであり、北朝鮮から武器を輸入したエジプトは違反を犯したことになる。ただし、強制的に制裁を執行する権限を持たない国連が、北朝鮮の不法な武器取引に歯止めをかけるのは不可能だ。

国連の専門家の推定によると、北朝鮮の武器取引額は年間1億ドル近く。韓国の朝鮮日報はその3倍の数字を挙げている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発、自律反発期待の買い 戻りは鈍い

ビジネス

午後3時のドルは157円後半で一進一退、豪ドルが上

ビジネス

企業向けサービス価格指数、5月速報から2020年基

ワールド

マレーシアと中国、5年間の経済協力協定を更新へ 李
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 6

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開する…

  • 7

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 8

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    水上スキーに巨大サメが繰り返し「体当たり」の恐怖…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思っていた...」55歳退官で年収750万円が200万円に激減の現実

  • 4

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は…

  • 5

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 6

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 10

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中