最新記事

北朝鮮ミサイル発射

北朝鮮を止めるには、制裁以外の新たなアプローチが必要だ

2017年8月29日(火)09時00分
三浦瑠麗(国際政治学者)

北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14号」(2017年7月5日配信) KCNA/REUTERS

*以下は、筆者が国際オピニオンサイト、The Conversationに寄稿した2月13日付の英語記事の日本語訳です。

北朝鮮がドナルド・トランプの米大統領就任後初めてのミサイルを発射した時、日本の安倍晋三首相はちょうど、強固な日米同盟を再確認するため訪米中だった。そろって臨んだ記者会見で両首脳は、北朝鮮のミサイル発射を非難する共同声明を発表した。

アメリカは対北朝鮮政策を見直し中と伝えられ、2月初旬に初めて東アジアを訪問したジェームズ・マティス米国防長官は、北朝鮮が核兵器を使用すればアメリカは「圧倒的な」報復で応じると警告し、同盟国である日本や韓国を安心させた。

そうした脅しが北朝鮮に効かなかったのは明らかだ。今後の課題は、過去に北朝鮮を抑止しようと試みたときの教訓も踏まえて、いま何ができるかを問うことだ。

事態はなぜこれほど悪化したのか

2016年11月下旬、国連の安全保障理事会は、ミサイル発射と核実験を繰り返していた北朝鮮に対する新たな制裁決議を全会一致で採択した。だが主として中国が制裁実施に消極的だったため、制裁にはほとんど効果がなかった。

11月の国連制裁決議には、従来の制裁にあった明白な抜け穴を封じる狙いがあった。最も重要なのは、北朝鮮の石炭輸出を半分以下に減らそうとしたことだ。これは国際社会がイランに対して用いたのと同じアプローチで、いずれも核開発の野望を阻止することが目的だ。

2015年7月にアメリカなど主要6カ国がイランと結んだ核合意は、アメリカ国内では不人気だが、外交関係者の間では成功例とみられている。最低でも、イランが完全に核武装する前に、国際社会は時間稼ぎをすることができている。

だが北朝鮮の状況は極めて異なる。北朝鮮の核開発の野望が明るみになってすでに20年以上経つが、問題解決に向けた進展はほとんどない。北朝鮮は核開発どころか、すでに核兵器を手にしてしまった。

北朝鮮は今や最大20個の核弾頭を保有している可能性もあると、専門家は推定する。北朝鮮は2016年9月に5回目の核実験を実施しているので、その使用にもある程度長けてきているとみられる。

ミサイル発射実験も繰り返し、核弾頭をハワイやひょっとしたらアメリカ本土にも撃ち込む能力があることを見せつけている。2月12日に北朝鮮北西部の中国国境付近から発射された中距離弾道ミサイルは、約500キロ飛行してから日本海に落下した。

明らかに、北朝鮮に対する制裁は効果がなかったようだ。その間ずっと、北朝鮮の貧しい国民は、世界で最も残酷な独裁者の1人である金正恩朝鮮労働党委員長の支配下で暮らしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍事演習、開戦ではなく威嚇が目的 台湾当局が分

ビジネス

自民の財政規律派が「骨太」提言案、円の信認と金利上

ビジネス

消費者態度指数5月は2.1ポイント低下、判断「足踏

ビジネス

豪4月CPI、5カ月ぶりの高い伸び 利上げ警戒感高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 8

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中