最新記事

法からのぞく日本社会

「水道民営化」法で、日本の水が危ない!?

2017年7月6日(木)10時45分
長嶺超輝(ライター)

bee32-iStock.

<政府は水道法の改正を目論んでいるが、水道料金が上がったり、排水管が損傷したりと、過去に世界中で行われた民営化は失敗ばかりだ>

先の国会では、天皇陛下の退位を実現する特例法やテロ等準備罪(共謀罪)を新設する改正組織犯罪処罰法などの重要法案が成立し、そして2つの「学園」問題などが世間を賑わせた。

そんな中で、人知れず政府が国会に提出していたのが、改正水道法案である(結局、先の国会では成立せず継続審議扱いとなった)。(※)

これにより、水道事業が民営化されるとのことだ。これまで、鉄道事業、電信電話事業、郵政事業、製塩にタバコ販売と、さまざまな公務が民営化されてきた。今さら驚くべきことではなさそうだが、水道民営化とは、ライフラインの運営に関する民営化であり、他の民営化とは性格がやや異なる。

電話会社は選べる(1985年の民営化時に新規参入も認められるようになった)、宅配会社も選べる、鉄道もいちおう選べる。一方、電気やガス、水道は選ぶことができない。電気やガスは家庭向けでも小売りが自由化されたが、送電線やガス管は、従来からのものに変わりない。

お得な料金体系にしたくて契約先の企業を変更しようとも、都内であれば東京電力の送電網を介して電気は来るし、東京ガスの配管網を通って都市ガスが届く。

水道も同様だが、他のライフラインと違って、水は口に入れるものだ。生命維持に直結する。火力だろうと風力だろうと原子力だろうと、生成される電気は同じだが、水道はそうもいかない。水源がどこで、浄水場でどのような処理をされ、通ってくる水道管が清潔かどうかで、蛇口まで届く水の品質も違ってくる。

「安全な飲料水なら、ペットボトルとかウォーターサーバーでいいじゃないか」と、マリー・アントワネット的なことを考えても構わないが、日本が誇る上水道の「膜濾過技術」は世界トップクラスである。現状で日本の水道水は飲用として問題ない。経済的な条件に左右されず享受できる、恵まれた高品質の水道水を、あえて捨て去ることもない。

もちろん、水道が民営化されたからといって必ずしも品質が低下するとは限らないが、たとえば水道事業に外資系企業が入り込んだらどうなるか。それは、過去に世界中で行われた水道民営化事例が雄弁に物語っている。

維持管理だけでなく、水道料金の設定権も民間へ

すでに2002年、第1次小泉内閣において、「民間にできることは民間に」の掛け声の下、自治体は水道施設の運用や維持管理業務を民間委託できるようになっている。

その後、フランスの「水メジャー」ヴェオリアは、広島県と埼玉県で下水道の維持管理に関する包括的権利、千葉県で下水道施設、福岡県と熊本県で上水道施設の維持管理を請け負っており、同様の影響力が、ほかの自治体へも拡大中である。

【参考記事】「酒の安売り許さん!」の酒税法改正は支離滅裂

※改正水道法案の成立に関して事実誤認があり、訂正しました。(2017年7月6日)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米ウォルマート、数百人削減へ 本社などへの異動も要

ビジネス

MSCI銘柄入れ替え、日本株はアシックス1銘柄を新

ワールド

北朝鮮、盗んだ1.47億ドル相当の暗号資産を洗浄=

ビジネス

米家計債務、第1四半期は17.6兆ドルに増加 延滞
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中