最新記事

インタビュー

長時間労働の是正がブレークスルーをもたらす

2017年6月9日(金)18時58分
WORKSIGHT

wsLyndaGratton170609-1.jpg

本人の意思や心身への影響、チームの働き方などを複合的にジャッジ

――今後、働き方が多様化して全ての社員に裁量労働制が認められた場合、会社側は長時間労働や残業をどこまで認めるべきでしょうか。またそのとき、人事制度はどうあるべきでしょうか。

石川: 今後はおそらく人事評価の軸も変わっていくことになるでしょう。これまでのように就労時間だけで評価するのはでなく、例えば本人が非常にやりがいを持って仕事に取り組んでいて、なおかつ健康を損なうレベルでなければ、長時間労働も許容されるのではないでしょうか。

また、チーム内の労働時間のバランスも見ていく必要があるでしょう。1人だけ長時間働かなければいけないという状況はつらいです。ですから本人の意思や心身への影響、チームとしての働き方などを複合的にジャッジしていくことになると思います。

グラットン: 石川さんの講演* で特に印象的だったのが、サミュエル・スマイルズのことです。スマイルズは不屈の意志が重要だと説き、それが明治期の日本人に広く受け入れられた。それが脈々と息づいてきたからこそ、景気の低迷を盛り返すべく長時間労働に精を出しているのかと腑に落ちました。

ただ、これからは違った考え方を導入していかなくてはいけないと思います。長時間労働の基本的な問題は行動が反復的になることです。でも反復作業はロボットやAIの得意分野ですよね。機械なら24時間休みなく働き続けることができます。ですから、反復作業は機械に任せ、人間はクリエイティビティの分野で能力を発揮すべきなのです。

イノベーションを起こすには、いろいろなアイデアを取り入れ、なおかつそれを温める時間が必要ですが、長時間労働に追われているとそれはかないません。この点、企業は本腰を入れて対策を講じるべきでしょう。週末は出社やメールを禁止するといった小手先の対応でなく、どうすればイノベーションを育むことができるのかを考え、働き方を抜本的に変えていく必要があると思います。

日本人には優れたクリエイティビティが備わっていると思いますし、イノベーションを発揮できる素地もあります。さまざまな仕事を機械化することで"カイゼン"も進めてこられましたね。しかし、まだ大きなイノベーションには結びついていません。イギリスも含めた多くの国が大きなブレークスルーを必要としていますが、これは今の働き方ではなし得ないものだと思います。

ダイバーシティの促進は人事制度改革のヒントになる

――人生100年時代になって、高齢の労働者でも生産性を保つことが重要とのことですが、体力や知力がピーク時から衰えていく人もいると思います。日本企業は成長を前提として、従業員を長期間雇用するための評価システムを組み上げてきましたが、今後は働き手の衰えとどう付き合い、評価システムと同居させていけばいいのでしょうか。

グラットン: 終身雇用に基づいた制度をどう変えていくかということで、この点は日本の社会も企業もジレンマを抱えていると思います。就職先として大企業が安心だ、大企業なら一生面倒を見てもらえるという考えはもはや過去のもので、20歳から80歳まで1つの会社に勤め上げるということはまずないでしょう。

ということで、組み合わせで考えていかなくてはいけないと思います。働き手本人が自分をマネジメントして、しっかりと移行期を越えていくことが重要です。そして企業も、例えば退職した人がやっぱり戻りたいといった場合、迎え入れる準備ができているでしょうか。他にも政府や教育機関など、多くのステークホルダーが関わるべき問題です。残念ながら、ご質問に対する答えを私は示すことができません。

ただ、ヒントになることは1つ申し上げられます。以前、ロンドンにいらしたある日本企業のCEOに会社をどう変えていけばいいのかと聞かれました。その方もやはり現在の人材慣行のひずみに悩んでおられました。私はこの会社がクルミのようだと感じ、殻を破るには殻を叩き割るか、中の実に到達する何らかの方法を見出すか、いずれかの方法しかないと答えました。取るべき道は当然後者です。叩き割ることなく変化を模索していかなくてはなりません。特に日本の企業はタイトに制度設計がなされていますから、どう変えていけばいいか見当もつかないということはあるでしょう。それでも例えばダイバーシティを促進する、女性の社員や幹部を増やしたりするだけでも違ってくると思います。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米CB消費者信頼感、5月は102.0 インフレ懸念

ワールド

イスラエル戦車、ラファ中心部に初到達 避難区域砲撃

ワールド

香港、国家安全条例で初の逮捕者 扇動の容疑で6人

ワールド

サウジ国王、公務に復帰 肺炎治療後初の閣議出席=報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 2

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏最新インタビュー

  • 3

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧州はロシア離れで対中輸出も採算割れと米シンクタンク

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 6

    コンテナ船の衝突と橋の崩落から2カ月、米ボルティモ…

  • 7

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 8

    TikTokやXでも拡散、テレビ局アカウントも...軍事演…

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 9

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 10

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中