最新記事

欧州

トランプ時代の世界的波乱に、日欧枢軸は自由の防波堤となる

2017年1月18日(水)11時00分
河東哲夫(本誌コラムニスト)

Waldemarus/iStockphoto

<頼りなげなEUが秘める意外な潜在力を、日本外交が利用しない手はない>

 今年の世界は、実業家感覚で世界を再編しようとするトランプ次期米政権次第だ。その犠牲にならぬよう、アメリカから一歩離れて日本が連携を強化する場合、EUはどれだけ重要なパートナーとなり得るだろうか。

 確かにこの頃のEUは波乱の種が尽きない。国民投票や選挙、移民問題やテロだけでない。ロシアはフランスやハンガリーなどの反EU勢力に手を伸ばしており、昨年11月のブルガリア大統領選挙では社会党(旧共産党)候補が勝利した。トランプ当選の原動力となったアメリカの右翼メディアサイト・ブライトバートはイギリスに続き、今月にはフランスとドイツに進出を計画。極右化の波はEUにも押し寄せる。

 日本では、EUというと国家の上にそびえ、不要な戦争を阻止する、新世紀の国家の在り方を形作るものと仰ぎ見る人がいる。ただEUの実態はそれには及ばない脆弱なものだ。EUに「国家の上にそびえる」統治者など存在しない。EUを統治する欧州委員会、理事会、中央銀行、議会を全部かき集めても、軍、警察、財政の権限は加盟各国に握られている。欧州委員会が権限を持つ域内の経済政策にしても、新たな法・規則を作る場合には、加盟各国の関連省庁間調整から始まり、ブリュッセルでの各国代表間の延々とした会議の末、ようやく決まるのだ。

【参考記事】欧州の命運を握る重大選挙がめじろ押し

民主主義、自由、平等

 それでもEUというメカニズムがあることで、各国の政治家や官僚は顔見知り。問題が起きるとすぐ電話で相手をファーストネームで呼び合い、収拾策を決めてしまう。あるときはEUの名で、またあるときはドイツやフランスといった国の立場から世界に影響力を行使する、変幻自在の一大勢力と思えばいい。

 EU全体のGDPは16兆ドル強 (世界全体の22%)。国連では英仏の2カ国が安全保障理事会の常任理事国の座を占め、米中ロ間のキャスチングボートを握る。G7では実に4カ国がEU加盟国だ。EUと日本の間では、いくつかのテーマについて擦り合わせが有用だ。

 1つはトランプが安全保障面で同盟国により大きな負担を求めている点だ。例えばドイツのメルケル首相は、現在GDP比1・2%の国防費を20年には2%と大幅に引き上げる構えを示す。

 もう1つは、トランプの保護主義的傾向への対応だ。EUはこれまで、アメリカとも日本ともFTA締結を渋ってきた。ここにきて、日本とFTAを早期に結ぶことで、アメリカの保護主義を抑えようとする機運も現れた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

4月工作機械受注は前年比11.6%減、16カ月連続

ビジネス

楽天Gの1─3月期、純損失423億円 携帯事業の赤

ワールド

プーチン大統領、16-17日に訪中 習主席と会談へ

ビジネス

独CPI、4月改定は前年比+2.4% 速報と変わら
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中