最新記事

メディア

偽ニュース問題、米大統領選は始まりに過ぎない?

2016年11月30日(水)20時19分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

Fabrizio Bensch-REUTERS

<大量の「偽ニュース」やデマがトランプを当選させたと議論されており、フェイスブックも対応を約束。しかし来年は、ドイツなど欧州各国で重要な選挙が目白押しで、いずれの国でも右派が支持を拡大している>

 今回の米大統領選では、ネットで大量につくられた「偽ニュース」やデマが選挙結果を歪めたのではないかと議論され、その拡散に大きな役割を果たしたフェイスブックやグーグルに批判の矛先が向いている。

 ローマ法王がドナルド・トランプ支持を表明したとか、ヒラリー・クリントンはISIS(自称イスラム国、別名ISIL)に武器を売っていたとか、そういった事実に基づかない"ニュース"がトランプの当選を実現させた――というわけだ。

【参考記事】ネットで飛び交う偽ニュースがトランプを大統領にしたのか?

 これは決してアメリカだけの問題ではない。ロイターなどの報道によれば、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は21日、議会での演説で、偽ニュースやボット(自動操作プログラム)、ネット荒らしへの対処法について議論を呼び掛けた。「この現象に対処しなくてはならない。場合によっては規制が必要だ」

 ドイツでは2017年9月に連邦議会選挙が予定されているが、ここ最近は反移民・難民を掲げる新興右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が地方選で躍進。今年9月には、首都ベルリンやメルケルの地元州でも、メルケル率いる与党・キリスト教民主同盟(CDU)が大敗し、AfDが票を伸ばしている。最大の理由は、ヨーロッパを揺るがす難民受け入れの問題だ。

【参考記事】メルケルを脅かす反移民政党が選挙で大躍進

 ロイターによれば、CDUとその連立相手である社会民主党(SPD)両党のフェイスブックページは、合計してもいいね!数が約24万。一方、2013年に設立されたばかりのAfDは単独で30万以上のいいね!を誇り、既存政党はオンライン上での支持獲得においてそもそもが出遅れている。

 そんなところへ、大量のボットが右派政党の主張を広め、さらには与党の評判を貶める偽ニュースが拡散すればどうなるか。メルケルの懸念ももっともだろう。

オランダ、フランスも重要な選挙を控える

 ドイツだけではない。ヨーロッパでは2017年3月にオランダで総選挙が、春にはフランスで大統領選挙が控えている。オランダでは反イスラムの極右政党・自由党が支持を伸ばしており、フランスでも移民排斥を掲げる極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首が大統領の座をうかがっている。

【参考記事】フランスに極右政権誕生!を防ぐのはこの男?

 偽ニュース問題に関しては、批判を受けたフェイスブックとグーグルは、ニュースフィードに表示させないよう対策を取ると発表。来年の一連の選挙までには、技術的な対策が奏功し、偽ニュースが影響力を失う可能性はある。

 しかし、仮に偽ニュースが消えたとしても、事実でなくとも都合のよい主張をする政治家や、事実かどうかを確かめず見たいものだけ見ようとする有権者の存在は簡単にはなくならないだろう。トランプの支持拡大や、6月の英国民投票でのEU(欧州連合)離脱の選択には、そうした潮流が関係している。

 2016年は、偽ニュースが現実の政治を左右した"始まりの年"に過ぎなかったのかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米小売売上高4月は前月比横ばい、ガソリン高騰で他支

ワールド

スロバキア首相銃撃され「生命の危機」、犯人拘束 動

ビジネス

米金利、現行水準に「もう少し長く」維持する必要=ミ

ワールド

バイデン・トランプ氏、6月27日にTV討論会で対決
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中