最新記事

イギリス政治

エリザベス女王がトランプ氏を公式招待へ ──王室の占める位置とは

2016年11月25日(金)18時10分
小林恭子(在英ジャーナリスト)

 エリザベス女王(90歳、在位1952年ー)は英国の元首であるほかに、16カ国の主権国家(英連邦王国)の君主であり、54の加盟国からなる英連邦および王室属領と海外領土の元首、英国会の首長でもある。

 在位は64年となり、ウィンザー朝(1917年ー)の第4代君主。ウインザー家の家系をたどると、18世紀にドイツからやってきたハノーバー朝で、ドイツ系の王族が現在まで続いている。

皇室との違いは

 立憲君主制の英国と、天皇陛下が国の象徴となる皇室とでは政治に干渉しない点で共通しているが、異なる点も多い。例えば日本の場合は皇統に属する男系の男子が継承するが、英国では女性も王位を継承できる。

【参考記事】天皇陛下の「生前退位」に興味津々の英国──最も高齢の王位継承者チャールズ皇太子に道は開けるか?

 英国では1960年代以降、より自由で柔軟な価値観が浸透し、親、会社の上司、そのほか社会のエスタブリッシュメント(支配者層)への敬意の念が薄れて行った。

 社会通念や価値観がより自由化、柔軟化した英国では王室批判のドキュメンタリー、新聞記事、ジョークは日常茶飯事だ。

 欧州のほかの国の王室ではほとんどが立憲君主制をとり、男女にかかわらず最初に出生した子供に次の元首となる権利が与えられるようになっている。

 エリザベス女王の公務の代表的なものとして、下院の会期オープニングの儀礼がある。毎回、女王が施政方針を読み上げる。

 実際にはこれは官邸が書き、女王が読む形をとっている。

 週に一度、首相との会合を持つ。この中で話された内容は一切外に漏らしてはいけないことになっている。

 政権交代の際には辞任する首相がバッキンガム宮殿に向かい、政権終了を報告する。入れ替わりに入ってくるのが次の首相候補だ。女王は「女王陛下の政府」を形成するよう、依頼する。

人気度は?

 複数の世論調査で王室への支持率はおおむね、高い。王室を廃止して共和制にしようと思う国民は「20%ほど」と言われている。唯一、批判が高まったのは、ダイアナ元皇太子妃がチャールズ皇太子との離婚後、自動車事故で亡くなった時(1997年)。エリザベス女王はスコットランドのバルモラル城に滞在しており、しばらくの間、国民の前に姿を現さなかった。

 メディアを通じて国民の不満感が伝わると、女王はロンドンに戻った。宮殿の前に積まれた、ダイアナ元妃を追悼する花束やメッセージに王室の家族全員が圧倒された。いかにダイアナ元妃が国民に深く愛されていたかが伝わってきた。

 女王はテレビで国民へのメッセージを流した。「女王として、そして一人の祖母として」の追悼の言葉だった。ここでまた、英国民はエリザベス女王の下に一つにまとまったのである。

***

 エリザベス女王とその人生、「クリスマス・メッセージ」については、こちらをご覧ください。

[執筆者]
小林恭子(在英ジャーナリスト)
英国、欧州のメディア状況、社会・経済・政治事情を各種媒体に寄稿中。新刊『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザで食料尽きる恐れ、ラファ作戦で支援困難に=国連

ワールド

旧ソ連モルドバ、EU加盟巡り10月国民投票 大統領

ワールド

米のウクライナ支援債発行、国際法に整合的であるべき

ワールド

中ロ声明「核汚染水」との言及、事実に反し大変遺憾=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中