最新記事

法からのぞく日本社会

ハロウィンのコスプレは法に触れる可能性があります

2016年10月24日(月)12時05分
長嶺超輝(ライター)

Yuya Shino-REUTERS

<コスプレで街を歩くのを楽しむ日として定着したハロウィンだが、どんな格好をしても自由かというと、そうとは限らない。著作権法や軽犯罪法、銃刀法、道路交通法など法による制限を、事前によく知っておくべきだ> (写真は昨年の神奈川県川崎市のハロウィン・パレードより)

 10月31日はハロウィンである。日本ではここ数年、堂々とコスチュームプレイ(コスプレ)をして街を歩ける日として急速に定着した感がある。
 
 先日、ある個人経営の居酒屋で飲んでいたところ、ハロウィンに関する話題となった。その際、ご年配の大将から発せられた「去年はここに魔法使いの格好をした女が入ってきてさ、なのに普通に飯食ってたから、気持ち悪かったよ。今年は出入禁止にしようか」との言葉が、未だに脳裏から離れない。

 日本では大原則として、どんな服でも着ることができる「ファッションの自由」が保障されていると考えていい。表現の自由を保障する日本国憲法21条1項や、個人の幸福を追求する権利を保障する同13条が、それを実質的に裏付けている。


◆日本国憲法 第21条
1 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。


◆日本国憲法 第13条
 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

 よって、ハロウィンにコスプレを楽しむ自由も、最大限に保障されなければならない。

【参考記事】写真特集:ハロウィン around the World

 一方で、居酒屋の店主が、ハロウィンのコスプレをして店内に入ってきた客を追い出すことも、それはそれで法的に問題ないのである。店舗の責任者は「施設管理権」を持っているからだ。店内で客がどのように振る舞うべきかの基本ルールに関して、主導権は店舗側が握っている。

 高級レストランなどで「ドレスコード」が設定されていることがある。それに準じて、ハロウィンのコスプレが店の雰囲気を壊すと判断すれば、出入口に「コスプレのお客さん、お断り」の掲示をして、一部の人々の立ち入りを禁じることもできる。

 学校や職場では、生徒や従業員に対する施設管理権が、さらに厳しく及ぼされる場合がある。生徒や従業員に対して、制服など特定の服装が指定されていれば、よほど不合理な指定でない限りは従わなければならない。

 では、店に入らず路上を歩いているだけなら、どんなコスプレでも自由なのか......といえば、基本的にはその通りなのだが、若干の例外があるので注意したい。具体的には以下の通りである。

警察官や自衛官そっくりなコスプレの制限

 軽犯罪法1条15号は、「資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者」について、処罰(最高で29日間の身柄拘束)する規定を置いている。

 よって、リアルすぎる警察官や自衛官のコスプレで、街のみんなから注目を集める自由は認められていない。ニセ警官やニセ自衛官がその辺をうろついていれば、社会に無用な混乱を引き起こしかねないからである。警察組織や自衛隊は国民からの信頼を損なってしまう上、詐欺や強要など、さらに重大な犯罪の温床にもなりうる。

 消防士、海上保安官、駐車監視員などについても、本物にそっくりな制服や制帽を作って着てまわれば、軽犯罪法に抵触する危険性がある。逮捕まではされなくとも、少なくとも警察の職務質問の対象にはなりうる。

 ただし、同じ警官コスプレでも、日本のものとは明らかに異なるデザイン(外国の制服や架空の制服)であれば、処罰の対象にはならない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ロビンフッドが初の自社株買い、第3四半期から10

ビジネス

日経平均は小幅反発で寄り付く、米ハイテク株高を好感

ビジネス

新技術は労働者の痛み伴う、AIは異なる可能性=米S

ワールド

トランプ氏不倫口止め裁判で最終弁論、陪審29日にも
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲームチェンジャーに?

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    メキシコに巨大な「緑の渦」が出現、その正体は?

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    汎用AIが特化型モデルを不要に=サム・アルトマン氏…

  • 6

    プーチンの天然ガス戦略が裏目で売り先が枯渇! 欧…

  • 7

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 8

    なぜ「クアッド」はグダグダになってしまったのか?

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 1

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃がのろけた「結婚の決め手」とは

  • 4

    ウクライナ悲願のF16がロシアの最新鋭機Su57と対決す…

  • 5

    黒海沿岸、ロシアの大規模製油所から「火柱と黒煙」.…

  • 6

    戦うウクライナという盾がなくなれば第三次大戦は目…

  • 7

    能登群発地震、発生トリガーは大雪? 米MITが解析結…

  • 8

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 9

    「天国にいちばん近い島」の暗黒史──なぜニューカレ…

  • 10

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中