zzzzz

最新記事

日本社会

「国籍唯一の原則」は現実的か?――蓮舫氏の「二重国籍」問題をめぐって

2016年9月9日(金)19時50分
韓東賢(日本映画大学准教授)

 母親からも受け継げる父母両系に変わったのは1985年だ。1981年に発効した国連・女子差別撤廃条約には、子どもの国籍に関する男女平等について定めた規定がある。それを満たして条約に加入するため、1984年に国籍法が改正され、1985年に施行された。改正の背景には、沖縄で無国籍のアメラジアンの子どもたちが増加していたという事情もあった。

 蓮舫氏が父親とともに代表処に行ったとしているのが17歳のとき、1985年だったのは、おそらくこのためだ。

出生時は父系血統主義で台湾国籍に

 彼女が生まれた1967年、日本の国籍法は父系血統主義だったため日本人の母親の国籍を受け継ぐことはできなかった。そうした経緯から、彼女は父親の国籍を継承することになったのだろう。その国籍を付与するところの台湾、つまり中華民国は日本と1952年に国交回復済みだったため、それは日本でも認められた「国籍」となった。

 その後、前述したように1985年から、日本の国籍法改正によって父母両系になるのだが、出生時に父母いずれかの国籍を引き継げるようになったということで、1967年生まれの蓮舫氏は対象外だ。

 では彼女はどのようにして日本国籍を取得することになったのか。

経過措置により母の国籍取得可能に

 当時、改正国籍法の施行後3年間は、施行前に日本国民である母から出生した20歳未満の子どもとその子どもは、法務大臣に届け出ることによって日本国籍を取得することができるという経過措置が取られたのだ。某紙のインタビューで、「帰化」ではなく「国籍取得」だと答えていたのがこういうことなら、合点がいく。

 1972年の日中国交正常化によって日本は中華民国、つまり台湾と国交を断絶した。日本における外国人登録上は「中国」という表記に統一されていたが、中華民国の国籍は日本国内では国籍として認められない。そのような状況のなか、ダブルの蓮舫氏が自分の意志であれ家族の判断であれ、経過措置というチャンスを利用して日本国籍を取得しようというのは自然な成り行きだったのではないだろうか。

形骸化する国籍選択制度

 こうして蓮舫氏は日本国籍を取得することになり、後に国会議員となる資格も得たのだと思われる。台湾国籍離脱の真偽については不明だが、もし事実なら、父親が律儀な人だったのだろう。

 なぜなら国籍法改正の際、父母両系主義の採用により重国籍者の増加が見込まれるとして、重国籍者は成人後2年以内、つまり22歳までにいずれかの国籍を選択しなければならないものとする国籍選択制度を新設したからだ。これは、日本の国籍法が「国籍唯一」の原則を取っていて重国籍を許容していないためである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾との平和的統一の見通し悪化、独立「断固阻止」と

ワールド

北朝鮮、韓国に向け新たに600個のごみ風船=韓国

ワールド

OPECプラス、2日会合はリヤドで一部対面開催か=

ワールド

アングル:デモやめ政界へ、欧州議会目指すグレタ世代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
特集:イラン大統領墜落死の衝撃
2024年6月 4日号(5/28発売)

強硬派・ライシ大統領の突然の死はイスラム神権政治と中東の戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    キャサリン妃「お気に入りブランド」廃業の衝撃...「肖像画ドレス」で歴史に名を刻んだ、プリンセス御用達

  • 3

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...すごすぎる日焼けあとが「痛そう」「ひどい」と話題に

  • 4

    ウクライナ「水上ドローン」が、ロシア黒海艦隊の「…

  • 5

    ヘンリー王子とメーガン妃の「ナイジェリア旅行」...…

  • 6

    「自閉症をポジティブに語ろう」の風潮はつらい...母…

  • 7

    ロシアT-90戦車を大破させたウクライナ軍ドローン「…

  • 8

    1日のうち「立つ」と「座る」どっちが多いと健康的?…

  • 9

    米女性の「日焼け」の形に、米ネットユーザーが大騒…

  • 10

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 1

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「回避」してロシア黒海艦隊に突撃する緊迫の瞬間

  • 2

    自爆ドローンが、ロシア兵に「突撃」する瞬間映像をウクライナが公開...シャベルで応戦するも避けきれず

  • 3

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発」で吹き飛ばされる...ウクライナが動画を公開

  • 4

    中国海軍「ドローン専用空母」が革命的すぎる...ゲー…

  • 5

    ハイマースに次ぐウクライナ軍の強い味方、長射程で…

  • 6

    「なぜ彼と結婚したか分かるでしょ?」...メーガン妃…

  • 7

    仕事量も給料も減らさない「週4勤務」移行、アメリカ…

  • 8

    都知事選の候補者は東京の2つの課題から逃げるな

  • 9

    少子化が深刻化しているのは、もしかしてこれも理由?

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中