最新記事

南シナ海

チャイナマネーが「国際秩序」を買う――ASEAN外相会議一致困難

2016年7月25日(月)17時20分
遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長)

中国にとって重要なASEAN内陸国(左がカンボジア首相、右がラオス首相、先月) Samrang Pring-REUTERS

 ラオスで開催されているASEAN外相会議で南シナ海に関する判決を共同声明に盛り込めないように、中国は早くからカンボジアとラオスを抱き込んでいた。南シナ海沿岸国でないASEAN内陸国を狙った中国の戦略を読む。

7月14日に落とされていた議長国ラオス

 7月24日からラオスの首都ビェンチャンでASEAN(東南アジア諸国連合)の一連の外相会議が開催されている。会議では中国が主張する南シナ海における管轄権は法的根拠を持たないとする仲裁裁判所の判決にどう対応するかを盛り込んだ共同声明を出すはずだった。しかし中国はそれを早くから見越してASEAN諸国分断に向け手を打っていた。

 その10日ほど前の7月15日と16日、モンゴルのウランバートルでASEM(アジア欧州会議)が開催されたが、中国の李克強首相は一日早く現地入りして、現地時間7月14日午後、ウランバートルのホテルでラオスのトーンルン・シースリット首相と会見していた。

 李克強首相は、中国・ラオス国交正常化55周年記念を新しいスタート地点として、両国の全面的な戦略パートナーシップを強化するため、「鉄道、投資、インフラ、電力、エネルギー源」分野などに関して数多くの新しいプロジェクトに調印した。

 その上で李克強首相は南シナ海仲裁判決に対する中国の原則的立場を述べ、トーンルン首相に支持を求めた。

 トーンルン首相は、「喜んで中国の立場を支持する」と述べて、李克強首相を喜ばせている。

 そもそもラオスは一党支配の社会主義国家。旧ソ連が存在していたときはソ連と仲良くし、中ソ対立をしていた中国とは敵対関係にあった。しかし旧ソ連が崩壊する兆しが見えてきた80年代後半から中国と手を結び、ソ連崩壊とともに中国との緊密度を増している。

 中国にとってはラオスもカンボジアも南シナ海の海に接していない「ASEAN内陸国」。

 南シナ海で利害が衝突しない「ASEAN内陸国」を狙い撃ちする中国の周到な戦略は早くから始まっていた。

7月15日に落としたカンボジア

 現地時間7月15日の午前、李克強首相はカンボジアのフンセン首相とウランバートルで会っていた。カンボジアとは「政治的相互信頼関係」と「経済相互補助の両国の優勢」を基軸として、「投資、経済貿易、農産品加工製品、水利、インフラ建設」などに関して多くのプロジェクトに調印した。かつ教育や観光分野などに関して、できるだけ多くの中国人をカンボジアに旅行に行かせたり、多くのカンボジア青年を人材養成のために受け入れることなどを約束した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金

ワールド

ニューカレドニアの暴動で3人死亡、仏議会の選挙制度

ワールド

今年のユーロ圏成長率、欧州委は2月の予想維持 物価
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中