ドイツ発「インダストリー4.0」が製造業を変える
そうしてスマート化した工場同士を連結すれば、従来のバリューチェーンがデジタル化したデジタルバリューチェーンが完成します。各工場の情報システムをつないで、最終的に国全体を1つの仮想工場に見立て、国家の基幹産業である製造業を包括的に効率化することがインダストリー4.0の目標です。
これを推し進めて、ドイツ国内だけでなく海外にもインダストリー4.0の技術を使った工場が増えればグローバルな水平展開も見込めます。従来のバリューチェーンがデジタル化される、すなわちデジタルバリューチェーンが構築できれば自国のスマート工場と基盤を同じくするスマート工場が増えるので、それだけ連携先も増えることになり、これもまたドイツにメリットとなるわけです。
インダストリー4.0はエコロジーも推進
また、スマート工場のシステムや設備、機器などを丸ごとドイツに発注したい新興国の企業が出てくるかもしれません。買い替えや他のブランドへの乗り換えが容易にできる消費財と違って、工場となるとそう簡単に代替できません。最初の設備投資もさることながら、メンテナンスやバージョンアップも含めて長期的で安定した利益をもたらすでしょう。インダストリー4.0ビジネスは輸出産業としても将来性が期待されているのです。
さらにもう1つ付け加えるとするなら、スマート化が実現すれば生産や廃棄のロスを減らせますし、そもそも本当に必要なものを作っているかを問い直すリデュースも促進されます。ですからインダストリー4.0はエコロジーを推進するものでもあります。
ドイツは2018年までにインダストリー4.0のプロトタイプを完成させ、2020年までに一部をマス・カスタマイゼーション化した工場を自国の工場内で操業するという計画や、2035年までにはインダストリー4.0を産業全体に適用するという研究ロードマップを発表しています。***
そうなると製造現場で今以上に機械やロボットが関わるようになりますが、ドイツは全てを機械任せにしようとは思っていません。デジタル化することで効率的な製造を可能にしようとしているだけで、従業員の再教育や学校教育の変革を通して人間はよりクリエイティブな新しい仕事を担うことが望まれています。
世界に通じる革新的な産業を自分たちで作り上げ、それを伝播させていく。インダストリー4.0はモノづくり大国ドイツの野心的な取り組みを示すものといえるでしょう。
インダストリー4.0の背景にあるのはITの発展、コスト上昇、ニーズの多様化
インダストリー4.0が生まれた背景には、ドイツが製造業の分野で直面する3つの環境変化があります。
1つは情報通信技術、インターネットの発展です。アメリカのIT企業を中心にクラウドコンピューティングやビッグデータを活用した製造業の新しいビジネスモデルが急成長しています。そうしたIT企業の下請けとして部品の製造や組み立てに従事するだけでは旨みがありませんし、低価格競争に巻き込まれることへの危機感もあります。これを打破するためにドイツは新しいモノづくりを主導することを考えているわけです。
2つ目の変化は生産コストの上昇です。東欧諸国やアジア新興国が生産拠点として台頭する一方、ドイツ国内では原発の廃止などでエネルギーコストが上昇。生産効率性を高める必要に迫られています。