最新記事

イギリス

タタ撤退計画で英鉄鋼業界に激震、EUの規制も影響

英鉄鋼労組幹部はムンバイのタタ本社に事業継続の直訴に向かう

2016年3月31日(木)20時29分
ルーシー・クラークビリングズ

閉鎖の危機 英最大の鉄鋼プラントとポート・タルボットの町 Rebecca Naden-REUTERS

 インドの鉄鋼大手タタ・スティールがイギリスからの全面撤退を検討していることが明らかになり、衝撃が広がっている。何千人もの従業員の解雇が予想され、イギリスの鉄鋼業界全体が大打撃を受けかねない。

 タタの発表によると、サウスウェールズ地方にあるイギリス最大の製鋼所ポート・タルボット工場の再建計画は、インド・ムンバイで行われた取締役会で「コストがかかりすぎる」として却下された。

 世界的な鉄鋼需要の減少で鉄鋼業界では過当競争が激化している。鉄鋼需要はますます低下の一途をたどる見通しだ。

全面撤退なら1万5000人規模の雇用喪失

 ポート・タルボットの再建断念は、ロザラム、コービー、ショットンなどイギリス各地にあるタタのプラントにも影響を及ぼすだろう。タタが全面撤退すれば、ざっと1万5000人分の雇用が失われ、工場のあった町の景気も冷え込みかねない。昨秋にはタイの鉄鋼大手サハウィリアがイギリス北東部ティーズサイドのプラントを閉鎖、2200人分の雇用が失われたばかりだ。

【参考記事】衰退デトロイトはこの都市に学べ

 今やヨーロッパでの鉄鋼生産で第2位を占めるタタ。撤退の影響はあまりに大きく、イギリスの鉄鋼労働組合の幹部は今週インドに赴き、溶鉱炉の火を消さないよう役員に直訴する予定だ。

 英政府とウェールズ政府は、イギリスの鉄鋼業界の未来を守るため、「精力的に」交渉を行っていると発表した。

 世界的に鉄鋼は供給過剰で、安価な輸入品がヨーロッパ市場に流入、生産コストが高くつき、ユーロ相場が不安定な状況で、イギリスをはじめヨーロッパの事業の業績は「急速に悪化」したと、タタは説明している。

 タタの声明によると、取締役会は「事業再構築に向けて、(英子会社)タタ・スティールUKの全部門または一部の売却も含め、あらゆる選択肢」を検討するよう勧告したという。

【参考記事】想像を絶していた!中国鉄鋼の過剰生産

 英国家統計局(ONS)の発表によると、ウェールズは昨年、人口に対する雇用の伸びが英国内で最高を記録した。15年9~11月の3カ月間に就労者数は前年同期よりも4万8000人増加、失業者は1万1000人減少し、失業率は5.5%になった。タタの発表で、ウェールズ経済も世界的な景気低迷の煽りを受けることを改めて痛感したと、ウェールズ政府は述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン氏、不法移民救済 市民権取得に道 米大統領

ビジネス

米5月小売売上高、予想下回る0.1%増 高金利で裁

ワールド

今後1年で金準備増やす中銀増える見通し=WGC調査

ビジネス

FRB「忍耐必要」、インフレなお高水準=ボストン連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:サウジの矜持
特集:サウジの矜持
2024年6月25日号(6/18発売)

脱石油を目指す中東の雄サウジアラビア。米中ロを手玉に取る王国が描く「次の世界」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 2

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 3

    えぐれた滑走路に見る、ロシア空軍基地の被害規模...ウクライナがドローン「少なくとも70機」で集中攻撃【衛星画像】

  • 4

    800年の眠りから覚めた火山噴火のすさまじい映像──ア…

  • 5

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 6

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 7

    ルイ王子の「くねくねダンス」にシャーロット王女が…

  • 8

    中国「浮かぶ原子炉」が南シナ海で波紋を呼ぶ...中国…

  • 9

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 10

    中国不動産投資は「さらに落ち込む」...前年比10.1%…

  • 1

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 2

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車の猛攻で、ロシア兵が装甲車から「転げ落ちる」瞬間

  • 3

    新型コロナ変異株「フラート」が感染拡大中...今夏は「爆発と強さ」に要警戒

  • 4

    米フロリダ州で「サメの襲撃が相次ぎ」15歳少女ら3名…

  • 5

    毎日1分間「体幹をしぼるだけ」で、脂肪を燃やして「…

  • 6

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 7

    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…

  • 8

    カカオに新たな可能性、血糖値の上昇を抑える「チョ…

  • 9

    森に潜んだロシア部隊を発見、HIMARS精密攻撃で大爆…

  • 10

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 1

    ラスベガスで目撃された「宇宙人」の正体とは? 驚愕の映像が話題に

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    ニシキヘビの体内に行方不明の女性...「腹を切開するシーン」が公開される インドネシア

  • 4

    ウクライナ水上ドローンが、ヘリからの機銃掃射を「…

  • 5

    「世界最年少の王妃」ブータンのジェツン・ペマ王妃が…

  • 6

    接近戦で「蜂の巣状態」に...ブラッドレー歩兵戦闘車…

  • 7

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃の「マタニティ姿」が美しす…

  • 8

    早期定年を迎える自衛官「まだまだやれると思ってい…

  • 9

    ロシアの「亀戦車」、次々と地雷を踏んで「連続爆発…

  • 10

    我先にと逃げ出す兵士たち...ブラッドレー歩兵戦闘車…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中